暑い日差しの中バス停の向こう側に一面、
黄色い絨毯のように向日葵が咲いている。
「あー暑い、暑い」
憎々しげに向日葵を見上げた男は何を思ったのか、
一本の向日葵の太い茎を踏み折ってしまう。
「この暑いのに、何が向日葵だ」
訳の解らないことを口にしながら上着を振り回す。
彼はセールスマンでこの暑い中スーツを着込み
一軒一軒家を回っては商品の説明をしていた。
しかし、上手く行かず上司からも怒鳴られる日々が続いていたのだ。
「俺の所為じゃねー、暑いから売れねーんだ」
二本目を踏もうとしたときだった。
『やめてください』
か細い声が男の耳に届いた。
「あん?誰だ!でて来い!」
返事は無い。
二本目を踏み折った時だった。
『あぁぁぁぁぁ』
断末魔のような悲鳴が向日葵畑から響いた。
「だ・・・誰だ」
男は目を凝らした。
しかし、そこには向日葵畑しかない。
『私は向日葵の精でございます』
「えっ・・・」
『あなたは私の仲間を二人も殺しましたね』
「何言ってんだ・・・誰も殺してなんか・・・」
男は足元の折れてしまった向日葵を見て、慌てて足を引っ込めた。
『私たちはただ咲いているだけなのに、
あなたはなぜこんなことをするのですか?』
暑さで幻聴が聞こえるのかと頭を振る。
向日葵が揺らめき、男に迫る。
『許せない・・・』
『許さない』
『許すものか!』
いくつもの声が響く。
「う・・・うわぁぁぁぁああ」
男は慌てて駆け出していった。
しばらくすると、向日葵畑から一人の若い男が顔を出した。
「あはははははは・・・すげぇ慌てようだな」
折られた向日葵を見て頭を掻いた。
「バスを待ってる間に向日葵の種でも拾おうかと思ったら
あいつが暴れだすんだもんな」
とっさに裏声を使って男を追い払おうとしたのだ。
「しかし、向日葵の精とは・・・オレも乙女チックなことを思いついたもんだぜ」
男は折れた向日葵から種を取り出すとポケットにしまいこんだ。
「来年は俺の家の庭で咲けよ、俺が大事に育ててやるから」
ポケットを軽く叩くと微かに返事が聞こえた気がした。
『アリガトウ』
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