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更新日:2009年07月01日
タイトル : 契約書 [ショートショート]


机に置いていた古いランプから煙と共に現れたのは、
変な髭の生えたおじさんだった。

「おじさんとは失敬な」

おじさんは私の心を読んだのか、不愉快そうに眉をしかめた。

「ワタシは魔法のランプの精です。
 あなたの願いを三つ叶えてあげましょう」

私がお願い事を言おうとする前に、
ランプの精のおじさんは白い紙を私の前に広げた。

「願いを叶える前に、私と正式に契約を交わしてください」

言いながら、ランプの精は髭をもしゃもしゃと触った。

「それと、私のことはジンとお呼び下さい」

どうも、おじさんと呼ばれるのは嫌らしい。
ジンの差し出した紙には色々と文字が書いている。

でも、読めない。

「おや、あなたはまだ文字が読めないのですね」
文字が読めないからって、馬鹿にしてないでしょうね。
「いえいえ、馬鹿になどいたしません。
お体が小さくても、ランプから私を呼び出したのですから、
あなた様がワタシの主人でございます」

体が小さいってのは余計よ。
まぁ、良いけど。

「最近の世の中は物騒ですので、
 私と契約を交わしてから、
お願いを叶えさせていただくのです」

じゃぁ、ジン。
これにはなんて書いているの?

一枚目の紙に手を置いた。

「これには
『我、ランプの精と契約を交わす』
と書いております。
まずは、私の主人を決めるのです」

でも、困ったことに私は文字がかけない。
「でしたら、拇印でも構いませんよ」
私の手は小さかったので、手形になってしまった。
じゃぁ、この二枚目は?

「これには
『無限なる願いは叶わず』
と書いております。
 ずっとお金が増えつづけるようにしろとか
 願いを無限にしろ(もしくは増やし続ける)
 などの願いは出来ないということです」

お金なんか欲しくないし、いいわ、手形を押してあげる。
三枚目も同じような文字が並ぶ。
やはり読めない。

「これには
『死と生に関する願い叶わず』
と書いております。
 いくらワタシでも、死んだ人を生き返らせろ、
 などの願いは叶える事は出来ません」

死んで欲しい人も、生き返って欲しい人もいないなぁ。
私は手形を押した。
でも、私が文字を読めないことをいい事に、
適当なことを言ってるんじゃないでしょうね。
「いいえ、ワタシは嘘が付けないようになっております」
本当かしら。
私の目の前に、四枚目の紙が置かれる。

「こちらには
『願いをキャンセルすることも一つの願いとする』
と書いております。
一度叶えた願いをキャンセルしてその分
他の願いを叶えることなどは出来ません」

それはそうでしょ。
私はジンの顔色を窺いながら、四枚目にも手形を押した。
さて、最後の一枚だ。

「これがもっとも重要なものでございます」

なんだか、真面目な顔になっている。
私はジンの差し出した五枚目の紙と、ジンの顔を交互に見比べた。

「これには
『三つの願い叶えた暁には、ランプの精の願いを叶えよ』
とあります。
 つまり、ご主人様の願いを三つ叶える代わりに、
 私の願いを一つ叶えていただくのです」

なんだ、そんなこと。
私はすぐに、手形を押した。
「よ・・・よろしいのですか?
これで、ワタシはあなたと正式な契約を・・・」
ジンはあっさりと契約を交わした私にうろたえている。

いいのよ、私はさっさと願いを叶えたいの。

「それでは一つ目の願いをおっしゃってください」

心を読まないで。

「かしこまりまし・・・・」
大きく頷きかけて、ジンは困ったという表情を浮かべた。

もう願いは叶ったようだ。

「これは・・・困った」
私はうろたえているジンをよそ目に、ベットの上に横になった。
「あの・・・ご主人様?」

うるさいなぁ。

「ああ、困った。
 願いを叶えてしまったので心が読めない。
 これでは残りの願いを叶えられない」

ジンは困ったようにしばらく辺りをうろついて、
自分の住処であるランプを振り返った。
私は起き上がって、ジンの出てきたランプの前に立った。
心を読むな、という願いの前にランプに戻れとでも言えばよかったわ。
ジンは私の手をじっと見つめると、深いため息をついた。

「ランプをこすって私を呼びだした者が
 何ものであろうと、ワタシの主人になる。
 こんな決まり事さえなければ」

ぶつぶつ言いながら煙へと代わる。

「ワタシを呼び出したのが・・・
     ご主人様が犬だったなんて・・・」

私がランプを咥え窓から落とすと同時に、ジンはランプの中へ消えていった。
机の上に残った五枚の契約書は、ジンが消えると共に燃え尽きた。

さぁ、これでゆっくり眠れるわ。
私はもう一度ベットに横になり、
私のご主人様が戻ってくるのを寝て待つことにした。

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