薄気味の悪い、夜だった。
月が不安げに顔を隠し、僕は重い扉をノックした。
ノックの音が響く。
しばらく待ったけど、返事が無い。
辺りは薄気味が悪いし、徐々に体が冷えてくる。
「大丈夫」
自分にそう言い聞かせ、扉を押した。
ずいぶん長い間放置されていたのか扉はひどく重く、
そして、不気味な音を響かせた。
その音は耳に響き、脳へと伝わる。
背筋がぞくぞくと震えた。
なんで、こんなところにいなくてはいけないのか。
自問自答している場合ではない、僕は玄関ホールの机の前に歩いていった。
机の上には一枚の羊皮紙に書かれたメモと立派なケースに入った杭があった。
『 この館に足を踏み入れたものは
館の主の呪いをうける
呪いをうけたくないものは
この杭で主を討て 』
杭は見たところ銀製だった。
ケースを開けて、慎重に持ってみる。
思ったほど重くはない。
しかし、手の中に広がる感触は殆ど本物。
こういう表現をするのには理由があった。
実はこれはゲームなのだ。
といっても、パソコンやテレビでやるゲームとは違って、
バーチャルリアリティの世界で本物と同じような感触を感じることの出来るゲーム。
特殊な装置を使ってのゲームらしいんだけど、正直、僕の理解の範囲を超えていた。
ただ、大学の先輩から「良いバイトを紹介する」といわれてノコノコついてきたら、
このゲームをしろということ。
ゲームを実際世間に出す前に試運転(?)という形でゲームをして、
問題がないか調べたいとのことだった。
僕はそっちの方面は暗いのだけど、お金に貧窮してるしバイト代はかなりいい。
なにより、先輩からの紹介だ。
断る理由なんてない。
手の中の杭を握りなおして、僕は辺りを見る。
先に来たはずの先輩の姿を探したのだ。
机の上にある杭のケースは2個。
一本は僕が。
もう一本は先輩が持っているはずだ。
「どこですか、先輩」
僕の弱弱しい声がホールに響いた。
自分の声に脅えたなんて、絶対に先輩には言えないな。
僕は震える足で先へと進んだ。
誇り臭い部屋。
香りまで感じるのかと、感心しているときだった。
「遅いよ」
僕が顔をあげると、先輩は二階へ続く階段の上にいた。
「すいません」
頭を下げて先輩の姿を追う。
「このゲームは二人一組なんだから、早く来てくれないと」
先輩は文句を言いつつも、楽しそうだった。
僕は先輩の後ろについて行きながら、震える足を必死に動かした。
「まずはどうするんですか?」
「この館の秘密をさぐるんだ」
「どうやって?」
「敵を倒しながら、それを探すのが一つ目の・・・」
そう言ってるさなか、二階のドアの一つが開いた。
先輩はさっと身構えて、何かを手にする。
僕はドアの開く音にびっくりして、腰を抜かしていた。
「馬鹿、何やってるんだ敵が出たら殺すんだぞ」
「そんなこといっても、武器なんか・・・」
僕は銀の杭を思い出した。
「まさか、杭が武器なんですか?」
「杭?」
先輩はドアを気にしつつ、僕のほうを見た。
「何だよそれ」
「え?」
先輩の手には杭はなかった。
その代わりに、おもちゃのような銃が握られている。
「だって、入り口の机にメモとこの杭が・・」
ドアの向こうからは何も出ない。
こちらが近づかないかぎり、敵も出てこないように設定されているのだろう。
「入り口に置いてあったのはこの銃だ。
杭はラスボスのときに初めてケースが開くって説明聞いてたろ?
おまえ、この銃をとらなかったのか?
何度目だよ、この話するの」
僕は首を振った。
「あれ?先輩・・・前にこの話しましたっけ?」
言った先輩本人も自分で首を捻った。
何かがおかしい。
ドアの向こうから人の姿が現れる。
先輩はそっちに向かって銃をかまえている。
この姿を何度、見ただろう。
僕はゲーム会社の人が言った言葉を、思い出していた。
「時折りバグが見つかるんだ。
手に入るはずのアイテムがなかったり、
急に物語が冒頭にもどっちゃったり」
思い出しながら、僕は自分の意に反して、
手にした杭を高々と抱えあげていた。
先輩は僕に背を向けている。
やめてくれ。
僕は・・もう・・・こんなことしたくない・・・
ジ・・・ジジジジ・・・・ガガガガガガガガガガ・・ガ・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
薄気味の悪い、夜だった。
月が不安げに顔を隠し、俺は重い扉をノックした。
ノックの音が響く。しばらく待ったけど、返事はない。
当たり前だ。何をしてるんだ、俺は。
肩をすくめ、扉を押した。
ずいぶん長い間放置されていたのか、
扉はひどく重く、そして、不気味な音を響かせた。
俺はその音にさえ、わくわくした。
そう、目の前に机があるはずだ。
杭の入ったケースと、羊皮紙のメモが置いてあるはず。
俺はそう考えながら、首を捻った。
このゲームは始めてやるはずだ。
もちろん、先にゲームの攻略の説明なんか聞いたら面白くないから、
目的だけ聞いてゲームの詳しい内容は聞かなかった。
なのに、なんでここに杭の置いてある机があるって知っていたんだ?
これも、ゲームのバグなのか?
自問自答している場合ではない、俺は玄関ホールの机の前に歩いていった。
やはり、机の上には一枚の羊皮紙に書かれたメモと立派なケースに入った杭があった。
『 この館に足を踏み入れたものは
館の主の呪いをうける
呪いをうけたくないものは
この杭で主を討て 』
杭は見たところ銀製だった。
二つのケース二つの杭。
俺は片方の杭を手にする。
「俺、さっきは銃を持ってなかったか?」
そう言いながら、苦笑いを浮かべた。
「初めてするゲームなのに、何言ってるんだ俺は」
遅れてやってくる後輩を二階で待つことにした。
どうせなら、脅かしてやろう。
二階の一室に身を潜める。
しばらく待っていると、人の足音が響いた。
「ん?あいつ一人じゃないのか?」
話し声もしている。
俺はドアを開けてそっと外を覗こうとした。
「!」
そこにいたのは後輩と、俺だった。
もう一人の俺はこちらに銃を向けている。
そして、アイツは腰を抜かして座り込んでいる。
どういうことだ?
なんであそこに俺がいる?
俺はこれもゲームの一つだと思ってドアの外へ出た。
銃声が響く。
俺の胸を貫通する。
そして、目の前の俺の背にアイツが杭をつきたてている。
何をしているんだ・・・おまえは・・・。
目の前が暗くなる。
ジ・・・ジジ・・・・ガガガガガガガガガガガ・・・
薄気味の悪い、夜だった。
僕は重い扉を押し開け、屋敷の中へ入る。
先にゲームを始めているはずの先輩の姿を探した。
「そうだ、先輩は二階にいるんだ」
そう口にして、僕は首を捻った。
なんで、そんなこと知ってるんだ?
僕はこのゲーム初めてしたはずなのに・・・
ジ・・・ジジ・・・・ガガガガガガガガガガガ・・・
ジジジジジジジジジ・・・ガガ・・・ジジ・・・ブツン
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