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更新日:2010年01月27日
タイトル : お祭りの夜 [ショートショート]


太鼓の音に心臓が跳ね上がる。
私の村のお祭りの開始の合図だ。
私は弟の手を握って、浴衣と下駄で家を出た。
「おねえちゃん、わたあめ食べたい」
弟は会場につく前から出店のことばかり頭に浮かぶらしい。
私は笑って、弟の手を握り返す。
「わたあめだけ?」
「あとね、リンゴ飴とたこ焼きと・・・あと金魚すくいとね・・」
「おねえちゃん、そんなにお金持ってないよ」
そう言って、笑う。
「えーお父さんがくれてたでしょ」
ちゃっかり見ていた弟は私を睨んだ。
「二人分なのよ?」
「えーーー」
口を尖らせる弟と、夜道を歩く。
同じように祭りに向かう人の流れに、私の足は自然と速まった。
会場ではさっそく弟がリンゴ飴を頬張り、私はわたあめを手にした。
半分以上、弟のおなかに納まったわたあめはすでにべたつく割り箸だけになっている。
「食べ過ぎると、明日、おなかを壊しちゃうからね」
たこ焼きをせがむ弟に、私はため息混じりにお財布からお金を出した。

「ねーねー、あれって何のお店?」

出店からほんの僅かわき道にそれたところに、小さな明かりとテントがあった。
そこへたこ焼きを手に向かう。
「いらっしゃい」
笑顔で顔を上げたのはやせた男の人。
くんくんと鼻先を動かして、私の手の中のたこ焼きを見つめる。
「ここは何のお店ですか?」
そっとたこ焼きを男の視線からそらした。

「思い出を扱っております」

私は眉をしかめて、弟の手を握る。
「思い出って?」
店先に並ぶものを見た。

薄汚れた独楽に、泥まみれのおはじき。
それから、糸が解けて中身が見えるお手玉。
破れた絵本に、古いお人形。

「ただのガラクタ?」

「とんでもない、とても大事な思い出ですよ」
弟はすでに、薄汚れた独楽を楽しそうに手にしている。
「思い出って・・・」
私はそれを見ながら、ふと視線がとまった。
視線の先にあったのは、一冊の絵本。
破れた絵本には記憶があった。
しゃがみこみ、それを手にする。
中をあけて最後のページを見る。
とても汚い字で、私の名前がかかれてあった。
「コレって・・・私の・・」
小さな頃、お母さんに何度も読んでもらった絵本。
友達が出来て外で遊ぶようになってからは手にしなくなって、
いつのまにか無くなっていた。
「なんでここに?」

「ここには行き先のなくなった、思い出が集まるんですよ。
でも、それは行き先を思い出したようですね
それはあなたの思い出のようだ、どうぞお持ちください」

そういって、にっこり笑う。
ちょっと恥ずかしくなって私は弟の手を握って立ち上がった。
「僕これほしい」
弟の手には独楽。
「ええ、どうぞ」
「でもこれは誰かの思い出なんでしょう?」

「行き先のなくなった思い出です。
新しい思い出の欠片になるなら、この独楽も喜ぶでしょう?」

その言葉に、私は弟を見る。
汚れたそれをとても大事そうに握った。
「お金は・・・」
「そうですね・・・」
貰うつもりのなさそうな男は、ついっと私の手を見る。
そして、指を挿した。
「お代でしたら、そのとてもおいしそうなものでいかがでしょう」
「これでいいの?」
私の差し出したたこ焼きを嬉しそうに受け取る。
弟はちょっと不満そうだ。

「では、お代はいただきましたので」

気づけば私と弟は出店の並ぶ道のど真ん中にいた。
どんなに探しても、あの店は見つからない。
でも、私の手の中には絵本があって。
弟の手の中には独楽がある。

夢ではないようだ。

「おねえちゃん・・僕たこ焼き食べたい」

弟は不満そうに私の手を引くので、私はもう一度たこ焼きを買いに走った。

家に着くと、お父さんが弟の独楽を見て首をかしげた。
「それ、どこで見つけたんだ?」
「えっと・・お祭りでね」
「そうか、いやぁ俺が小さな頃になくした独楽とそっくりだな
・・・よし、俺が独楽の回し方を教えてやろう」
弟の手から独楽を取り上げると、お父さんは子供のように笑って独楽に紐を巻く。
それを弟がわくわくした顔で見つめた。

私は絵本を広げる。
破けて、汚れたそれはとても懐かしい思い出をたくさん私に思い出させてくれた。

そして、回る独楽はお父さんと弟の共通の思い出。
新しい思い出に追加される日もそう遠くはないだろう。

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