<?xml version="1.0" encoding="UTF-8"?>
<feed xmlns="http://www.w3.org/2005/Atom">
   <title>けさぱさ工房</title>
   <link rel="alternate" type="text/html" href="http://kp-kobo.hiho.jp/" />
   <link rel="self" type="application/atom+xml" href="http://kp-kobo.hiho.jp/atom.xml" />
   <id>tag:kp-kobo.hiho.jp,2010://1</id>
   <updated>2010-01-27T08:49:25Z</updated>
   
   <generator uri="http://www.sixapart.com/movabletype/">Movable Type 3.35</generator>

<entry>
   <title>2月1日はお疲れ様でした！！</title>
   <link rel="alternate" type="text/html" href="http://kp-kobo.hiho.jp/2009/02/21.html" />
   <id>tag:kp-kobo.hiho.jp,2009://1.27</id>
   
   <published>2009-02-03T13:19:55Z</published>
   <updated>2009-02-03T13:29:54Z</updated>
   
   <summary>2月1日福岡ヤ○ードームでは 皆様お疲れ様でした！ そして、けさぱさ書房にいらし...</summary>
   <author>
      <name>天乃</name>
      
   </author>
   
   
   <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://kp-kobo.hiho.jp/">
      2月1日福岡ヤ○ードームでは
皆様お疲れ様でした！

そして、けさぱさ書房にいらしていただいた方々
大変ありがとうございます。

なんか本当にスペースの場所が超微妙だったので
あんまりいまいちだったらしいのですが（天乃談

それでも天乃の本を手にとっていただいた方々には
本当にお礼申し上げます！

つか、結構面白いでしょ！天乃の本！！
いや、うん、面白いんだよｗ

というわけで、5月のイベントにも参加いたしますので
その時もよろしくお願いいたしますね☆



さて、今後の予定ですが、

まず、サイト改装します。
もう少し小説サイトっぽく、ブログ臭を消せてたらなぁ～
と思いますが…ヘイの持ってる技術で出来るだろうか…

それと、天乃の小説ストックが山ほどあるので
バンバン上げていきます！
あ、改装が終わってからですが…。

さらに、ヘイ的に予定してることがいろいろあるのですが
まぁ、それは、追々…。


それでは、皆様5月にお会いいたしましょう！！
      
   </content>
</entry>
<entry>
   <title>キャンディ</title>
   <link rel="alternate" type="text/html" href="http://kp-kobo.hiho.jp/2009/03/post_25.html" />
   <id>tag:kp-kobo.hiho.jp,2009://1.34</id>
   
   <published>2009-03-06T06:11:58Z</published>
   <updated>2009-03-06T06:13:35Z</updated>
   
   <summary>きっと今でも歩き続けている 　 　 　 この物語はそんな小さな旅人たちの紡いだ、...</summary>
   <author>
      <name>天乃</name>
      
   </author>
         <category term="短編" scheme="http://www.sixapart.com/ns/types#category" />
   
   
   <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://kp-kobo.hiho.jp/">
      きっと今でも歩き続けている
　
　
　
この物語はそんな小さな旅人たちの紡いだ、旅の欠片の一つにすぎない
　
　
　
　
　
　
　
小さな村にある唯一のお店。
小さなお店ではあるが、ないものはない、というくらいに品揃えだけは豊富だ。
キャンディーから冒険小説、裁縫道具から農具、食器に靴に包帯とありとあらゆるものをそろえている。

そんな両親の残してくれた店で一人で働いている私の名前はライラ。
この名前は自分でも気に入っている。
これでも若いころは近隣の村村から「嫁にきてくれ」と引き手あまたであった、

現在四十うん歳・・・（詳しくはいえない）。
若いころに戻れるなら、言ってやりたい。

「選り好みするな」と。

まあ、そんな感じで現在独身。
いい相手がいれば、即、結婚したいって思ってもできない年齢に達している。
それでも、若いころの功績もあってかお客は多く村の情報源にもなっている。
今日もへんなことを言ってきたお客がいた。
村で唯一の酒屋（というか店の主が一番酒飲みだといううわさもある）が夕方、
いつもどうり赤い顔で上機嫌にやってきた。


「よ、今日もベッピンだね」


そういってイスに座り込んだ。
実はこのイスもはじめは商品として置いていたが来る客来る客全員がそこへ座るものだから、
仕方なく値札をはがしたものだ。

「また飲んでたのかい？いいかげんにしときな、もう年だろう」

売り物のコップに水を汲んで差し出すと、おいしそうに飲み干した。
「はは、お互い年のことは触れまいでおこうや」
コップを返してくると、手を伸ばして商品を選び始めた。

「あたしはあんたより若いよ」
「水といえば・・・」

何か思い出したように話し出した。


いつもこうだ。


話に脈絡がない、よっぱらいってのはなんでこうなのかね。
「この村の向こうにきれいな湖があるだろ？あそこに化け物が出たらしいぞ」
へらへらわらって言うものだから、信憑性はない。
私も適当に話をあわせた。
「へぇ、どんな姿なんだい？」
「それがな、小さな女の子が黒い大きな化け物に襲われかけてたのをみたやつがるんだとさ」

「小さな女の子？」

首をかしげた。
この村にも子供はいるが、そんな話聞いたことない。
「そんなやつでたら俺が退治してやるよ、ははははは」
そう豪語して、結局何も買わずに店を出て行った。
何も買わないのに店に来る客はよくいるが、酒のにおいを残していくのはやめてほしいもんだね。

風を通そうと窓をあけた。

そこに小さな女の子がたっていた。

見たことのない子。
村の子供ではない。
年のころは十歳前後だろう、大きな黒い帽子の下の金色の髪が珍しく、じっと見入ってしまう。
私が同じくらいの年のころ、こんな髪の色にあこがれたものだ。
赤茶けた髪は私の唯一、誰にも自慢できないところだ。

一応付け加えるが、若いころの私の、ということである。
いまはもう、しわや衰えの見える姿で自慢できることなどない。
少女の足元を見ると、ずいぶんくたびれた靴を履いている。
馬車も馬も使わずに、ずっと歩いてきたのだろうか。

どこからきて、どこへ？

「すみません、このあたりに宿屋はありますか？」

どことなく大人びた口調の彼女は、少し疲れた表情を浮かべていた。
「この村には宿屋はないのよ」
「そうですか、ありがとうございました」
少々落胆した表情を浮かべ、頭を下げると道の向こうへ歩き出した。

「ちょっとまって」

慌ててとめたのはきっと、彼女の姿をもう少しじっくりみたかったからだ。
好奇心が旺盛なのは子供のころからで、年をとっても消えることはなかった。

「もしよかったら、うちに泊まりなさい。この先はしばらく村も何もないわよ、狼なんかがでてあぶないし」
「でも・・・ご迷惑では？」
「そんなことない、ない。一人暮らしだし、ね」
「それでは失礼して」
丁寧に頭を下げると店の入り口から入ってきた。

店の中を珍しそうにみると、いくつかを手にとってじっくりと見ていた。
そういえば荷物といえば背中にある小さな鞄だけで、首から下げた赤ん坊のこぶしくらいの
小さな箱らしきもの意外ほかにない。

いったい何者なんだろうか。

「旅でもしてるの？」
「ええ、まぁ探し物があって」

あいまいな返事だ。
さっきの酒屋の主の話が頭に浮かんだ。

「すみません、これ、いただけますか？」
彼女の指す先にキャンディの入ったビンを見つける。
「いいわよ、いくつ？」
「二ついただけますか？」
取り出して渡すとひとつを口に入れた。
「おいしい」
　口に含んだキャンディを転がしながら、口元に弧を描いて微笑んだ。
「キャンディなんて久しぶりに食べました。このお店は何でもあるんですね」
そういってほかの商品も見始めた。
もうひとつのキャンディはポケットにしまう。
後で食べるのだろうか。
「どこからきたの？」
イスを差し出すと彼女は軽く頭を下げ座った。

「あちらからです」

右側を指した。
湖のある方角だ。

「どこへ行くの？」

「あちらに」

左側を指す。

「探しものってなに？」

その質問にはあいまいな笑みで返した。
いえないものなのだろうか？
詳しいことを何も言わないが、聞かれたくないのだろうか。
礼儀正しい上に口調もどことなく違う。

どこか町から来た言いお家のお嬢さんだろうか？
そのわりには服は普通だ。
疑問が山ほどあり、それ以上に好奇心が増した。

「あなた一人なの？おかあさんやおとうさんは？」

ぶしつけかと思ったが好奇心が優先した。
彼女はちょっと考えるとにっこり微笑んだ。
「親はいませんが、一人ではありません」
しかし、彼女以外に姿は見えない。
「あ、じゃぁ途中ではぐれちゃったのかな？」
「いいえ」
首を振るときっぱり言った。

「ここにいます」

そういって自分の胸を指した。
「あ、もしかして・・・」
家族が亡くなっても心にはいる、そういいたいのだろう。
それ以上聞けなくなり、日も落ちて来たこともありとりあえず店の二階にある住居へ連れて行った。

一人暮らしで培った料理を振舞うと、とてもおいしそうに笑顔で食べてくれた。
こういう姿を見ると、結婚して子供を持てばよかったと後悔する。
ああ、やっぱり若いころに戻って若い私をしかってやりたいよ。

一人で生きていく

なんて、言うもんじゃないって。

食事の後、いろいろと話をしたり聞いたりした。
詳しいことはやはりわからなかったが、彼女はずいぶん長い間あちこちを旅してるらしい。
使っていなかった空き部屋に案内する。
小さなソファーと机しかないが、彼女くらいの体なら十分に寝られるはずだ。
「何かいるものがあれば買っていけばいいよ、おまけしておくから」
「ありがとうございます」
丁寧に頭を下げ、少女は毛布受け取った。
「じゃ、おやすみ」
「おやすみなさい、ライラさん」
ドアが閉まって気づいた。
私の名前は名乗ったが、彼女の名前を聞いてなかった。
しかし、いまさら寝ようとしている彼女に名前を聞くのもためらわれ、
明日でも聞こうと自分の部屋に戻った。


夜遅く、物音で目を覚ます。
どうやら風が出たらしい、店の看板が壁にぶつかっては音を立てている。

「寒い」

冬も近くなり、夜の寒さが一段と厳しくなってきた。
そういえば、彼女には毛布一枚しか渡していない。
寒くないだろうか。

「店に置いてるものをもってってやるか」
階下に下りようとして風の音以外に人の声を聞いた。
どうやら彼女を案内した空き部屋かららしい。
「寝言かしら？」
足音をしのばせて部屋にちかずく。
壁に耳をつけて聞いてみた。

「ライラさんていい人ね。初めて会う、見知らぬ私達を泊めてくれるもの」

やはり彼女の声だ。
「私もああなりたいわ」
話の内容にちょっと照れてしまう。
しずかにドアから離れようとしたときだった。


「イツカ、ナレル」


別の声がする。
闇にとけいるような声、しかもどことなく変だ。


「そうだといいな」
「キャンディ、オイシイ」
「そうだね、甘いものなんてなかなか口にすることなかったものね」
「コノムラ、キテ、ヨカッタ」
「うん、湖では人に見られて騒ぎになってたもの、騒ぎがここまで届いてなくてよかったわ」
「トリニガシタ」
「そうね、どこに逃げたのかしら」


なにを逃がしたって言ってるのだろうか？

冷たい風がドアの隙間から漏れる。
「サムイ、ヘイキカ？」
布のすれる音がする。
「大丈夫よ、いままでの野宿に比べればここは天国だわ」
「テンゴク、チガウ」
「あのね、私の言ってる天国って言うのは・・・」
いったい何の話？
誰と話しているんだろうか。
「ここにはなさそうね」
「ココ、ナイ？」
「朝になったらすぐに出ようね、ライラさんに迷惑かけられないし」
ドアをそっと細くあける。
隙間から中をのぞいてみた。
部屋の中は暗く月の明かりで、わずかに部屋の中が見て取れた。
彼女の隣に何かいる。
しかし、角度がよくないのかよく見えない。

「・・・ナニカ、イル」

その声が急にかわった。
覗いているのがばれたかとおもって、あわててドアを閉めかけたときだった。


『ーーーーーーーーーーー！』


激しい風の中に獣の声がした。
狼ではない。
背中がぞくりとする恐ろしい声。

「何の声なの？」

震える私の声。それに答えるように、別の声がした。
「イタ」
窓があく音がし、あわてて部屋の中に飛び込みあたりを見回すが誰もいなかった。
荷物は置いてある。
窓から外をのぞくと道を走っていく彼女の姿が見えた。
「どこへいくの？」
風が窓から吹き込む。
冷たい風が体を冷やした。
「あの声はなんなの？どこへいったの」
怖いという気持ちももちろんあった、しかし、今度も好奇心が勝った。

階下に下りると、売り物のランプに特注品の油を注ぎ火をつける。
部屋の中を暖かい明かりが照らし出した。
仕入れたばかりのコートを寝着の上から着込み、手近にあった斧（お客から注文のあったもの）を
手にすると店を飛び出した。

彼女が走った方角は湖のほうだ。
躊躇、という言葉はなかった。
行ったらどうするか、獣か、化け物か、何かわからないものがいたらどうするのか。
走りながら少し、後悔の念が沸き起こった。


『ーーーーーーーーーーーーーーーーーー』


再び、雄たけびが聞こえる。
思わず足が止まってしまった。
引きずるような気味の悪い音がする。

何かが近づいてくる。

月を背にして、赤い皮膚の見たことのない狼、いや、

獣・・・化け物がそこにいた。

狂ったように輝く瞳、剥き出しの牙から落ちる唾液。
鼻につくいやな香りがあたりに充満している。
驚きのあまりその場に崩れ落ちる。
落としたランプの火も消えてしまった。

「ライラさんどうしてここに」

それを追ってきたらしい彼女は寝着のままだ。
首から小さな箱を下げたままだ。
「危ないから逃げてください」
逃げたいのは山々だったが、そう言われても腰が抜けて動けない。
化け物はだんだんと近づいてくるし、匂いは強烈になるし。
店に置いてる一番高い香水でも負けそうなにおいだ。
「出ておいで」
彼女は手にもった箱のふたを開けた。
箱から、黒いもやのようなものが湧き出る。

「イタ、ココニ、イタ」

それは、部屋で聞いたあの声だった。
彼女の背中に影のように張り付くと大きなぎょろっとした目が不気味に動いた。
「ひっ」
姿はもやのような人のなりそこないのような形、色は闇とは違う黒。
瞳は白く、光っている。
「ファイアー（炎の息）」
彼女がそう叫ぶともやは彼女から離れすうっと風に乗って化け物のそばまで動いた。
そ　れが大きく膨らむと、口らしきところから激しい炎を吐く。
化け物がその炎に一瞬ひるんだ隙に彼女が私のとこへ走ってきた。
「ライラさん、これ借ります」
彼女は私がそばに落としていた斧を拾い上げ、その小さな体のどこにそんな力があるのかと思うほど
軽々と化物に投げつけた。

「！」

それは見事に化け物の足にヒットした。
化け物の足に刺さった斧は痛さに暴れだした化け物に踏み潰されてしまった。
「立てますか？」
私の腕をつかむとぐいっと引っ張りたたせる。
物腰は柔らかなのに、力は大人顔負けである。
「まさか、こんなことになるなんて。ライラさんを巻き込んでしまって、すみません」
化け物が一声大きく鳴いた。
思わず耳をふさいだ。

「×××」

と同時に彼女が何かを叫んだ。
とたんに黒い影はさらに大きく膨らみ、黒い霧となり化け物を包み込んだ。
「なに・・・？」
揺らめく炎のごとく、霧の中でもがく化け物の姿が見えた。
「×××」
再びなにか叫んでいる。
耳をふさいでいた手をはずした。
「そのまま取り込んでしまうのよ」
そう彼女が言うと揺らめいていたもやが段々小さく、もとの形へともどりつあった。
「トリコム？タベル？」
もやがも答える。
「なに？どういうこと？」
「大丈夫です、安心してください」
安心するも何も、状況も目の前のものもまだ把握できていないって言うのに。
「さっきはなんて叫んでたの？何かの呪文？」
少し首を傾げ考え込むそぶりを見せると、なにかわかったようにうなづいた。
「ああ、あれはあの子の名前をいったんです」

「名前？」

『あの子』とよばれた黒いもやを見ると、やはり気味の悪い目をうれしそうに細めた。
黒いもやが元の大きさに戻りそこから離れると、それのあった場所に獣が一匹横たわっていた。
さっきの化け物とは違う年老いてやせ細った狼のようだ。狼の足から血が流れている。
さっき化け物の足に斧が刺さった場所と同じだ。
「あれがさっきの化け物の正体です」
彼女がそういって困ったように付け加えた。
「詳しいことはいえないんですが、あの老狼に悪いものが取り付いてあの化け物になっていたんです」
「じゃ、またあの化け物が・・・」
「それはありません。いま、この子が全部取り込んで消化しましたから」

「タベタ、デモ、キャンディノホウガ、オイシイ」

いつのまにか彼女のそばにそれが張り付いている。
真っ青になって思わず後ずさると、彼女は安心するように私にいった。
「この子はいい子ですから、人を襲うことはありません」
　いい子もなにも、なにがなんだかわからない。

「あなたたちいったい何なの？」

彼女は首を傾げ少し考えると簡潔に答えた。

「私の名前はパンドラ、この子の名前はシィワン。今のところ、旅人です」

パンドラが箱を開けるとシィワンと呼ばれた黒いもやは、
気味が悪くユニークな笑みを浮かべ吸い込まれるようにその中に入っていった。

「これがシィワンの家なんです。だから、ずっといっしょに旅をしてるんです」

　私は頭を抱えると、深く深呼吸した。
　
　
　
　
　
　
　
　
　
　
朝日が昇る前に、パンドラは借りていた部屋を出た。

部屋はきれいにされ、毛布もたたんである。
ライラの部屋の前に行くと静かな寝息が聞こえる。
昨日の今日だ、疲れなどもあるだろう。なにせ年なのに全力疾走していたから。
昨日のあの事件があった後も、ライラは変わらずパンドラにやさしく接してくれた。
ただし、彼女の持っている箱だけは気味悪そうに見ていたが。
階下に下りると宿賃を机の上において一言お礼を書いた紙を置いた。

「ヤドチン、イラナイ、イッタ」

箱の中から声がする。
「そうもいかないわ、ずいぶん迷惑かけたんだし。斧も壊しちゃったし、それに食事と泊めてもらった御礼はしなきゃ」
店を出ようとしたパンドラは机の上に置かれた荷物に視線が移った。

「・・・私あて？」

袋には大きく『パンドラへ』とかかれていた。
袋を開けてみると、新品の歩きやすそうな靴が入っている。もうひとつ袋が中に入っている、
それをあけてみると袋いっぱいのキャンディと手紙が入っていた。

「手紙かしら」

中にはこう書いてあった。



××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××

「あなたのことだから、私が寝てるうちに行ってしまうんでしょうね。
礼儀正しいあなたにしては、変な気の使い方ね。
あと、この靴をプレゼントするわ。
勝手においていくお金は靴の代金として受け取っておくわね。
何か困ったことがあったらいつでもきなさい。
きっと一人で退屈してるだろうから、いい退屈しのぎになるわ。

　　　　　　　　　　　　　　　　　元気でね。


　　　　　　　　　　　　　ライラより
　　　　　パンドラと　シィワンへ

　　　　　　　　　　　　　　　追伸、キャンディはサービスよ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　二人で仲良く食べなさい」

××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××
　
　
　
パンドラは袋から出した靴を履いた。
足にぴったりとあっている。
うれしそうに微笑むと、キャンディをひとつ箱の中に入れた。

「オイシイ」

　シィワンがうれしそうにいった。
パンドラは店を出ると、店に向き直り深々とお辞儀をした。
「私、やっぱりライラさんのようになりたいわ」
「ナレル、キット」
「ありがとう」
二人は朝日が昇るほうへと歩いていった。





      
   </content>
</entry>
<entry>
   <title>カップめん</title>
   <link rel="alternate" type="text/html" href="http://kp-kobo.hiho.jp/2009/03/post_26.html" />
   <id>tag:kp-kobo.hiho.jp,2009://1.35</id>
   
   <published>2009-03-07T06:41:18Z</published>
   <updated>2009-03-14T14:57:25Z</updated>
   
   <summary>　「カップめん」 長い雨がようやく上がる。 右腕を突き上げ、背中を反らして大きく...</summary>
   <author>
      <name>天乃</name>
      
   </author>
         <category term="ショートショート" scheme="http://www.sixapart.com/ns/types#category" />
   
   
   <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://kp-kobo.hiho.jp/">
      　「カップめん」

長い雨がようやく上がる。

右腕を突き上げ、背中を反らして大きく伸びをした。
と、大きなあくびも同時に湧き上がる。
目に、大きな涙が溜まった。

「ねむーい」

目が霞む。
ちょっと、ネットをしすぎたみたいだ。
コンタクトをはずして、目薬を差す。
私は頭を掻いた。
時計を見ると、三時を過ぎている。
私はお腹の辺りを撫でた。
静かなうなり声が上がる。

「お腹もすいたなぁ」

私は長時間座りつづけたイスから降りて、部屋を出た。
キッチンに行くと、ダンボールの中に手を突っ込んだ。
前に買いだめした安いカップめんを漁り始める。
「最近まともな食事を取ってないなぁ」
冷蔵庫は開けずともわかる。

空っぽなのだ。

しょうがないので、特に表示も確認せず、
パッケージが不味そうなものを適当に選んで開けた。

おいしいものは後にとっておく主義なのだ。

ヤカンを火にかけるとお湯が沸くまでの間、
私は意味もなく鼻歌を歌っていた。

どこで聞いたのだろうか、メインのメロディか思い出せない。

「たしか・・・あーっと・・なー・・・・なんだっけ」
歌詞もタイトルも思い出せないから、イライラする。

そのイライラを引き裂くように、ヤカンがけたたましい音を奏でた。

「お・・・沸いた沸いた」

鼻歌の問題は脇において、まずは腹ごしらえをすることにする。
カップめんにお湯を注ぐと馨しい香が鼻先をくすぐり、お腹はまた低く唸った。

「ぐわぁ、早く食べたいよぉ」

私は時間を待たずに蓋を開けると、
湧き上がる湯気が私の顔に心地よい潤いを与えた。
その湯気の向こうへお箸を突っ込んで、麺を引き上げた。

口に運びかけた麺からの、異常な香が鼻先を襲う。

「・・・うそ」

目の前にあるのは、緑色に苔むした麺。
お箸も、異常な古さになっている。

私は少しためらうと、カップめんにお箸ごと麺を戻した。
指先が震える。

「ありえないでしょ」

空腹にあえぐ私のお腹は、それでも一瞬
「苔が生えてても食べれないだろうか」と考えて口元まで運びかけていた。
そんな自分を恥ずかしく感じてしまう。

「青海苔？」
とありえない解釈をしようとして、私はカップめんの表書きを見る。

「何これ」
カップめんの蓋に書かれている商品名は。

『当たりつき浦島太郎麺』

私はカップめんを床に落として、あわてて鏡を覗き込んだ。

「ありえないぃぃぃぃぃいいい」

目の前の鏡に写ったのは老婆。
シワだらけの顔は間違いなく、私だ。
目の前にある信じられない現実に、その場に倒れこんでしまった。
目の前が真っ白になる。
それでも、空腹はおさまらずお腹は唸りつづけていた。

床に転がったカップめんには一言。

『当たりをひいた方は、浦島太郎と同じ経験が出来ます。
玉手箱を開けた経験を、二十四時間味わえます』

それに気付くまで、半日以上かかってしまったのだった。


      
   </content>
</entry>
<entry>
   <title>龍太郎の今者（はじめに）</title>
   <link rel="alternate" type="text/html" href="http://kp-kobo.hiho.jp/2009/03/post_29.html" />
   <id>tag:kp-kobo.hiho.jp,2009://1.37</id>
   
   <published>2009-03-14T15:00:00Z</published>
   <updated>2009-07-01T09:08:51Z</updated>
   
   <summary>この作品は 龍太郎の今者　（りゅうたろうのいま） という小説です。 軽く説明しま...</summary>
   <author>
      <name>天乃</name>
      
   </author>
         <category term="龍太郎の今者" scheme="http://www.sixapart.com/ns/types#category" />
   
   
   <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://kp-kobo.hiho.jp/">
      <![CDATA[この作品は

<strong>龍太郎の今者</strong>　（りゅうたろうのいま）

という小説です。
軽く説明しますと、

酒が飲めず甘い物好きな売れない小説家
龍太郎のまわりでおこる奇妙な話。

といった感じでしょうか。
一応続きものになっています。

上から順番にお読みください。


というわけで、まったりお楽しみください。
　
　
　
＊＊現在、UPしている作品＊＊

　　<a href="http://kp-kobo.hiho.jp/2009/03/post_27.html">しだれ柳の怪①</a>　（2009/3/15）
　　<a href="http://kp-kobo.hiho.jp/2009/03/post_28.html">しだれ柳の怪②</a>　（2009/3/20）
　　<a href="http://kp-kobo.hiho.jp/2009/04/post_30.html">灯火</a>　（2009/4/30)
　　<a href="http://kp-kobo.hiho.jp/2009/05/post_31.html">桜①</a>　（2009/5/27)
　　<a href="http://kp-kobo.hiho.jp/2009/07/post_34.html">桜②</a>　（2009/7/1)]]>
      
   </content>
</entry>
<entry>
   <title>しだれ柳の怪①</title>
   <link rel="alternate" type="text/html" href="http://kp-kobo.hiho.jp/2009/03/post_27.html" />
   <id>tag:kp-kobo.hiho.jp,2009://1.36</id>
   
   <published>2009-03-14T15:05:38Z</published>
   <updated>2009-03-14T15:11:27Z</updated>
   
   <summary>　　 　 　 時は大正。 一軒の古びた家屋のにすむ男の物語。 　 　 　 　 川...</summary>
   <author>
      <name>天乃</name>
      
   </author>
         <category term="龍太郎の今者" scheme="http://www.sixapart.com/ns/types#category" />
   
   
   <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://kp-kobo.hiho.jp/">
      　　
　

　
時は大正。
一軒の古びた家屋のにすむ男の物語。
　
　
　
　
川の流れは絶えず。
その中を流れていきたいと思うのは、私だけではないだろう。

私の名は龍太郎。

龍のように天までとどろく名を挙げろと父が名づけたのだが、
父の期待にこたえることはいまだできていない。
私の職業は文筆家。
聞こえはいいが、大学を出て早数年。
なんとかアヤカシ物語を書き食をつないでいるのだが
景気がよくないのかほんの売れ行きがよくないらしい。
原稿料も下がり、
原稿依頼も減り、
食をつなぐために大家のつてで日雇いのバイトをすることとなった。
先週までの工事現場での肉体労働で体がぼろぼろになって
ふらふらと家に帰った私に大家が新しく持ってきた仕事はなんとも不思議な仕事であった。

「私の知り合いの友人がね、しばらく家を留守にしなければならないので
そのあいだ留守番を雇いたいらしい」

三食付の上、給料も割とよかった。
私はその楽そうな仕事に１も２もなくうなづいた。

「でも、その方は他に親戚とかいないんですか？」
「それがね、どうもはっきりしないんだけど、ま、じかに聞いてみるといいよ」
「で？いつからですか？」
大家は私に一枚の住所がかかれた紙を渡し、腰をあげる。
「今からいけば間に合うさ。じゃ、頼んだよ」

「今から！？」

私は大慌てで荷物を準備し、汽車へと飛び乗った。
地図でかかれているのは少々遠かったが、
美しい湖のあると噂を聞いていた場所だったため
私は行楽気分で出かけたのだった。

汽車に揺られ数時間。

駅で買った饅頭も食いつくし、とぼとぼと歩きながら目的の家を探した。
途中すれ違う人に道を聞いてはだんだんと人気のない方へと歩く。

「本当にこんなとこに家があるのか？」

そう疑いたくなるほどさびれた場所にその家はあった。
一見、立派で豪華な様式の家は広い庭の中心にたち、
辺りに暗い影を落としている。
人の気配もないその家の壁際に、
不思議なことに一本のしだれ柳がその枝を地面に向かって伸ばしている。
来たことを後悔しながらも、大家の紹介は断るわけにも行かず、玄関の方へ向かった。

「すいません、すいません」

玄関のドアをノックする。
まるで映画で見たような立派なドアに私の心臓は跳ね上がった。
恐怖映画で見るような玄関なのだ。

「すいません･････」

何度めかのノックでドアは内側から開けられる。
出てきたのはかつては美しかったであろう、病にやせ細った女性だった。
私が大家の紹介できたものとしると、なにやら困惑の表情を浮かべた。
「ようこそいらっしゃいました」
張り付いたような笑顔を浮かべ、視線を落とす。
いまいち浮かない表情の女の名は八繁冴（やつしげさえ）といい、ここの主だった。

「ここにお一人でお住みなのですか？」

少々ぶしつけな質問かと思ったのだが、
どうも様子がおかしいのできいてみた。

「夫は昔になくなりました。
子供達は兄の家のほうにあづけておりまして、
私も今日そちらに向かう予定だったのですが････
あの、私、女性の方を留守にお願い申し上げましたのですが」

どうやらどこかで話が混乱したようだ。

女性はあきらかに時間を気にしながら、私の方をちらちらと見ている。
だんだんと表情はあせりの色をていしてきた。

「女性の家ですから、私のような男を留守にしては何かしらご心配もおありでしょうが････」

私は電車賃も使ってきたせっかくの楽な仕事を逃すまいと、声をかけた。

「奥様の部屋には入りませし、電話の方も必要でしたら、このように声を変えて出ましょう」

私は女性のような裏声を必死に出して見せた。
冴はその様子に心を決め、私に一枚の封筒をくれた。
中身は留守番役の給金である。

「家のどこをどう使おうとかまいません。
冷蔵庫の方には十分なだけの食材を入れてありますので、
すべて召し上がってくださって結構です。　　　　　
　ただし････」

言葉を確かめるようにゆっくりと言った。

「お約束くださいませ、
お休みになるのは私の寝室、カーテンは決して開けないこと。
それから、私が帰るまでは日が暮れてからは決して外へは出ないでください」

時間を確認しながら、何度も念を押した。

「それから、これは一番重要なおねがいでございます」

冴の細い指先が私の手をしっかりと握る。

「何があっても女性の振りをなさってくださいませ。
私の名を誰かが呼んだら必ず返事をしてくださいませ」

「いったい、誰がよぶんですか？
こちらにはあなたしか住んでらっしゃらないんでしょう」

しかし、その質問には答えず、立ち上がると荷物を持って玄関を出た。

「必ず、返事をしてくださいませ。女の声で」

私はその剣幕におされ、ただただ頷いた。

どうも、様子がおかしい。

私は家に一人になるとその広い家を見て回ることにした。
こうしてみると、静か過ぎて怖いくらいである。
いくつかの部屋は空だったり物置だったりした。

「おや、ここはダンナの書斎か？」

亡くなったとはいえ、やはり夫のものはそのままにしてあるのだろう。
ものめずらしい本に目が奪われ、手にとって見る。
中には売ればとんでもない金額になるであろう珍しい本もあった。
思わず持ち帰ろうとしてしまったのは、言うまでもない。
いくつかの本を手にて中を読んでいると、ひらりと本のあいだから写真が落ちた。

三人の仲良さそうな家族の写真。

「これは誰だ？」

たくましく元気そうな夫の隣に影のようにひっそりとたつ女性。
どうみても冴には見えない。
二人の間には子供の姿もある。
女性に似たやさしい顔をした子供だ。
冴には似ていないようだが。
写真をひっくりかええしてみると、男のしっかりした字がかかれてある。

「八繁誠一郎、初江　、誠太　庭にて」

私は書斎のカーテンを開け庭を覗いてみる。

すぐそばで柳が風にゆれる。

「初江とは誰だ？」

写真を戻すと机の上を触ってみる。
他には目立ったものはない。
私は他の部屋に行ってみることにした。
一室は女性の部屋で、ベットやタンスなど、女性が好みそうなものが揃えてあった。

「ここが婦人の部屋か」

婦人の隣の部屋はカギがかかっている。

そうなると中が気になるのは人の業である。

私は鍵穴からなかをのぞいてみた。
外の日が差しているのか、明るい部屋の中ででおもちゃが転がっている。

「子供部屋か」

私はなぜカギをかけているのか不思議には思いながらも、
その部屋を離れようとしたときだった。

『　　冴　　』

誰かが呼びかける。
私は一瞬立ち止まり、あたりを見渡した。

『　　冴　　』

子供部屋の中からだ。
私は冴との約束を思い出し、必死に裏声を作った。

「はい」

その途端に声はしなくなる。

さっき冴と呼んだ声が子供の声に聞こえ、
私はもう一度部屋の中をのぞいた。

もしかしたら、誰かいるのじゃないかと思ったのだ。
しかし、誰もいない。

否

部屋の中央、で何かが動いている。
目を凝らすとそれは機械仕掛けのおもちゃのようだった。

「なんだ･･･」

聞き間違いだろう、そう自分に言い聞かせる。
私は息をつくとその部屋を離れ、台所へと向かった。

いいかげん腹が減って来たのだ。

一人暮らしを長くしているため、ある程度の調理は自分でできる。
冷蔵庫を開けると、約束の三日分以上の食材がつめこまれていた。

食材以上に多かったのが、酒だ。

私はあまり酒が飲めぬので、これは殆ど残るだろう。

その夜、遅く。

食事も難なく済ませ、ラジオを聞きながら原稿を執筆していたときだった。

玄関でノックの音がする。

聞いてはいなかったが、冴の客だろうか。

私は慌てて玄関へと向かった。
しかし、ノックオンは玄関ではない。
壁をノックしているのだ。
私は女性のような裏声で、声をかける。

「どなたですか？」

一瞬ノックオンはやみ、そして、冴の名を呼ぶ女性の声が返ってくる。
私は前と同様に簡潔に返事を返した。
するとノックオンは止まり、静けさが戻る。

音が響いていたのは書斎のそばの壁。

つまり、柳の近くだった。


      
   </content>
</entry>
<entry>
   <title>しだれ柳の怪②</title>
   <link rel="alternate" type="text/html" href="http://kp-kobo.hiho.jp/2009/03/post_28.html" />
   <id>tag:kp-kobo.hiho.jp,2009://1.38</id>
   
   <published>2009-03-20T13:57:58Z</published>
   <updated>2009-03-20T13:58:40Z</updated>
   
   <summary> 言い知れぬ寒気が背中を這い上がる。 冷蔵庫から外国の高い酒を持ち出すとそうそう...</summary>
   <author>
      <name>天乃</name>
      
   </author>
         <category term="龍太郎の今者" scheme="http://www.sixapart.com/ns/types#category" />
   
   
   <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://kp-kobo.hiho.jp/">
      


言い知れぬ寒気が背中を這い上がる。
冷蔵庫から外国の高い酒を持ち出すとそうそうに寝ようと婦人の部屋にむかう。
部屋に入りベットサイドのランプに明かりをともした。
「ああ、気味が悪いな」
高そうなグラスに氷と眠るために酒を注ぐ。
ぐいっと飲み干しベットから布団をはぐるとベットサイドのソファーに転がった。
いくらなんでも婦人のベットで寝るわけには行かない。

酒をグラスにもう一度注いだ。

『　　冴　　』

「はい」

私は今度はためらわず答えた。
もちろん、裏声で。
声は壁の向こう。

子供部屋からだった。

グラスの中で氷が音を立てて溶ける。
それほどに静かだった。
壁の向こうにいるのが人間ならば、息遣いなどが聞こえそうなものなのに。

『　　冴　　』

その声はつづいた。

婦人の部屋にいる限り一晩中。
つまり、返事をするには寝られない。
次の日の朝、べつの部屋で寝る。

そして、日が暮れると書斎のそばで名を呼ばれ、
婦人の部屋で名を呼ばれそのたびに返事をしなければならなかった。

カーテンは締め切っていて、外の様子はなかなか見れない。
昼間、柳を調べに行ったがおかしなところはなかった。

壁際に生ええているという不思議をのぞけば。

ノックオンもおそらく柳の枝がぶつかってのものだと自分なりに解釈をする。
嫌な予感はしていた。
約束の期日を過ぎても冴は戻ってこなかったのだ。

やはり、楽して稼ごうなどとは思ってはいけない。

冴はこれが人間ではなく妖しの類だと知っていて、
自分が逃げるために留守を置いたのではないだろうか？

私はだんだんと不安になってくる。
ここを離れてしまえば、もう自分は関係ないのだが、
そうすると取り返しがつかなくなる気がした。

声の違いも気になった。

書斎のそばと子供部屋では声がちがう。
私はひとつ試してみることにした。

５日目の夜、私は震えながら婦人の部屋に酒を持ち込んだ。

酒は念のための気付け薬として。

『　　冴　　』

名を呼ぶ。

『　　　冴　　　』

しかし、私は返事をしなかった。

『　　　　冴　　　　』

声はだんだんと大きくなり、いらだったものに変わった。

『　　　　　　冴　　　　冴　　　冴　　』

呼ぶ感覚もだんだん短くなる。
すると、声とともに壁を激しくたたく音が響いた。


『　　冴　　冴　　冴　　　　さえぇぇぇぇぇええええええええ　』


最後は悲鳴のようになった。

これ以上は耐えられない。
私はぐいっときつい酒を飲み裏声を出した。
しかし、今回は治まる気配がない。


『　　さえぇぇぇぇええええ　　　　　
　　　　　　　　　　さえぇぇぇぇえええええ　　』


私は必死に返事を返すが
その声や壁をたたく音は激しくなる一方だ。
私は絶えられなくなり婦人の部屋を飛び出し玄関のドアを開けた。
開けて声には表せない恐怖を背後に感じた。

思い出したのは、冴が言っていた言葉だった。

「････日が暮れてからは決して外へは出ないでください」

玄関から書斎のそばの柳がみえる。

柳がゆれ、その隙間から柳の向こうにたつ女性の姿が見えるのだ。
月明かりもほとんどないのに、女の姿だけはなぜか浮き上がって見える。

白い顔にらんらんと輝く見開かれた瞳。

あの写真の女だと気づいた。
やばいと思ったとき、私に気づきおそろしい瞳でにらんだ。

「ーーーーー！」

女がこちらに向かってきそうな気がして、私は慌ててドアを閉める。
とたんに書斎そばの壁が激しく叩かれ始めた。

それは叩くというレベルをとうに超え、壁を壊す勢いだ。

『　　冴！　　冴！　　冴！　　さえぇぇぇぇ！！！！！！！』

婦人の部屋の方からも響く。

『　　さえぇぇぇぇぇええええええええええ　』

私は気を失いそうな恐怖から酒を何度ものどに押し込んだ。

気を失えば、そのままあの声に飲み込まれそうで。

このままあの声に私が殺されてしまうんじゃないかとおそろしかった。
何かが襲ってきそうな恐怖。

私はとうとう、意識を手放してしまった。

目をさますと、玄関が激しくたたかれている。
私は酒瓶を抱え壁によって振るえた。

「おい、いるんだろう!あけろ」

それは大家の声であった。
私は天の助けとばかりに抜けた腰を引きずり玄関に向かいカギを開けた。
その情けない姿を見て大家は度肝を抜いた。
「何があったんだ？」
私は信じてはもらえまいと思いながらも、この数日のことを話した。
大家はしばらく黙って聞いていたが私に今日の日付の新聞紙を見せた。

「おまえの帰りが遅いので心配になって連絡をしていたんだが電話がつながらなくてな。
ここへ向かう途中これを見て心配になったんだ」

それは小さな記事だった。

親子で旅行中の人が交通事故でなくなったというもの。
問題なのはそれが冴とその子であったということだ。
子供は少女と記載されている。

「私が、返事をしなかったから･･･」

大家は首を振った。

「これは言うべきか悩んだんだがな、
友人に尋ねたところ彼女はここに帰るつもりなかったようだ。
八繁さんは外国へわたる準備をしていたと・・・」

「じゃ、私はあの声のいけにえに？」

「彼女はそのつもりだったんだろうが、そうも行かなかったようだな」

新聞を机に置く。

大家が電話をすると警官が数人やってきた。
冴の事故の件だろう。
私も事情聴取されるのかと思ったが簡単に質問されて終わった。
どうやら、大家が口添えしてくれたようだ。
警官と大家と家の中を確認する。
書斎のそばの壁は大きなしみができていた。
女性の横顔だ。
その顔は恨めしそうにこちらを見ている。

初江だ。

私はその場にそれ以上いられず、大家と連れ立って冴の部屋に入る。
部屋は何も変わってない。
ただ、子供部屋のほうの壁が粘土細工のように盛り上がっていた。

それは子供の大きさで、私はその場で嗚咽を上げた。

大家が私の背を激しく叩く。
どうも本人は摩っているつもりらしいが、私の気分は悪くなる一方だった。
飲んだ酒がある程度出てしまった頃。

警官が子供部屋を空けようと言い出した。

私は遠慮するといったが、聞いてくれない。
そもそも、ここに来たのは大家の紹介ではないか
といって話をごまかしその場から逃げようと思ったが、
大家には「迎えにきてやったろう」とすごまれた。
大家に頭が上がらないとはなさけないのだが、
店賃をまってもらっている身では逆らえない。

カギが見つからないので警官が二人で体当たりしてドアを壊した。

部屋の中は恐ろしいことになっていた。

部屋中に子供の字で書かれた『冴』の文字。

たどたどしくかかれているが、何かで削ったようにかかれている。

「婦人の方の部屋は････」

警官が悲鳴をあげた。
見るつもりはなかったのに、思わず振り返ってしまう。

『　冴　』

びっしり壁にかかれ、その壁は真っ赤にぬめっている。
私たちは慌ててその部屋から飛び出した。

そして、後に警官から聞かされたのは八繁家の恐ろしい事件だった。



八繁誠一郎は若くして財を成し、
内助の功で誠一郎を支えた体の弱い初江はなんとか第一子であり長男の誠太を産む。
しかし、まもなく初江は体を壊しまだ誠太が幼いころ病死。
その途端に手伝いとして八繁家で働いていた冴が誠一郎の内縁の妻となる。
しかし、誠太はなつかない。
そのうち冴は妊娠し、女児を出産。
そうすると、長男である誠太は邪魔になる。
都合のよいことに、誠太も初江と同じように病に倒れあの子供部屋で亡くなる。

問題は、その後だ。

誠一郎の書斎のそばに柳の木が生え、夜毎うらめしいこえで冴の名を呼ぶ。
やがて誠一郎もまもなくなくなり、あの怪異が始まったらしい。
すべては冴の日記にかかれていた。

冴が前妻の初江と誠太を殺したのだろう。

私は二度と八繁家に行くことはなかったが、
あの柳が屋敷をいづれ飲み込む予感がして体を震わせた。

二度と、うまい話にのるつもりはない。

そう、心に誓って私は自分の部屋で真っ白な原稿に向かった。

飯の種のために命を削る思いをするのは、これが最後になって欲しいものだ。

そうつぶやいた。


      
   </content>
</entry>
<entry>
   <title>灯火</title>
   <link rel="alternate" type="text/html" href="http://kp-kobo.hiho.jp/2009/04/post_30.html" />
   <id>tag:kp-kobo.hiho.jp,2009://1.39</id>
   
   <published>2009-04-30T02:22:04Z</published>
   <updated>2009-04-30T02:23:13Z</updated>
   
   <summary>　 　 　 時は大正。 一軒の古びた家屋のにすむ男の物語。 　 　 　 　 川の...</summary>
   <author>
      <name>天乃</name>
      
   </author>
         <category term="龍太郎の今者" scheme="http://www.sixapart.com/ns/types#category" />
   
   
   <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://kp-kobo.hiho.jp/">
      　
　
　
時は大正。
一軒の古びた家屋のにすむ男の物語。
　
　
　
　
川の流れは絶えず。
その中を流れていきたいと思うのは、私だけではないだろう。

私の名は龍太郎。

龍のように勇ましい人間になるようにと父が名づけたのだが、
父の期待にこたえることはできなかった。

私の職業は文筆家。

聞こえはいいが、大学を出て数年。
いまだにあたりというべき傑作もなく、
飯のためにアヤカシの物語を書き綴っていた。

不思議なことに、この手の話は愛読者が多いようで苦しいながらも食っていけた。

親のすねをかじりながらではあるが。

それももちろん、話が書けたらのことである。
すでに締め切りをとうに過ぎ、店賃も滞納し、
昨日の昼から何も食うていない。
そんな、日のことだった。

「もうこれ以上は期日延ばせませんよ」

そういって喜多氏が私の机を叩いた。

「ああ、大体は出来上がってるんですけどね」

大体出来ているというのは、まったくできていないということだ。
喜多氏も深いため息をついて小柄な体をさらに小さく丸める。

「こんなことは言いたくありませんがね。
これ以上遅れるようならこちらとしても
センセイの作品をのせることできなくなるんですよ」

それは困る。
唯一の飯の種だ。

「わかっているんです、明日までには書き上げます」

「おとついも同じことおっしゃったじゃありませんか・・・しりませんよ」

そういうと喜多氏は窓の雨戸を開けた。

「ああ、こりゃ吹雪きますな」

喜多氏の言葉に顔を上げると、なるほど雪が矢のように降ってくる。
昨日から寒いと思ったら、雪が降っていたのか。

「あたしはこれであがりますが、明日の朝までにかならず書き上げてくださいよ」

私は原稿用紙に向かった振りをし、罰が悪いため片手で挨拶する。
立て付けの悪い玄関を必死に閉める音と、冬の寒さが私のところまで流れてくる。

かけなくともかかねばならぬ。

飯を食わねば、生きてはいけぬ。

私は万年筆を机に転がし、畳の上に大の字にたおれる。
「ああ、かの偉大な作家人等はこういうときどうやって逃げ出すのかね」
酒もタバコもやらぬ私には、唯一の気晴らしが散歩であった。
「しかし、そとは雪が降っておるしな」
障子にうつる雪の模様が、違う世界のように眼に映る。

じっとしていても腹は減る。

「仕方がない、大家さんに何か分けてもらおう」

行けば店賃の件でつかまることは目に見えていたが、もう、背に腹は変えられない。
上着を探すが、見つからない。
そういえば、三ｹ月前にも金が尽き服やなんやを売ったばかりだ。
「しかたがない、大家さんの家まで行けば、温かい飲み物でももらえるだろう」
楽観的な性格は祖父似だと、母がぶつぶつ言っていたのを思い出す。
仕方があるまい、こう生まれてしまったのだ。
私が物心つく前に亡くなった人と比べられても私には何もわからない。

「こりゃ・・・大家さんの家までつけるかね」

玄関を出てしばらく進むと、視界をさえぎられるほどの吹雪になる。
このまま帰るのも、行くのも一緒なら。

「腹がふくれるほうがいい」

私は必死に道を探しながら大家の家へ向かった。

「もし・・・もし・・・」

吹雪の中からか細い婦人の声が聞こえる。

「もし、そこの方どちらへ向かわれます」

声の主を探すと一軒の仄かな灯りのともった家の玄関から、
着物姿の細身の美しい女性が顔を出し白い腕で手招きする。
こういう仕事をしていてなんだが、
あれがアヤカシであっても私は迷わず行くだろう。

「ええ、少々用事がありまして大家のもとまで」

「まぁ、このような吹雪の中をあぶのうございます。
もしよろしければ吹雪がやむまでうちで休まれてはいかがでしょうか？」

彼女が動くと鈴の音が鳴った。
腰紐に鈴をつけている。

「いえ、しかし女性が一人の所に私のようなものが行けばなんと噂されるか」

そう答えながらも、まんざらではない。

「そんなこと気にしなくてもようございます。
夫がまもなく帰りますし、吹雪きもやがてやみましょう」

夫もちか。

これだけの美人なのだ、ほっておかれるはずもなかろう。

「お茶くらいならございます。
さぁ、早くお入りください。
私の体も冷えてしまいます」

「それではお言葉に甘えまして・・・」

いいかげん体の冷え切っていた私は、熱い茶に惹かれてしまう。
玄関を入り、戸をしっかり閉めると廊下の灯りがゆれた。
婦人はにこやかに私を手招きした。

「さぁ、どうぞ」

私は体に積もった雪を払い、家にあがりこむ。
しかし、夫がすぐに帰ってくるといっても、
私のように風体の怪しい男を家に上げるとは・・・
心やさしいのか、あほなのか・・・
はたまた・・・アヤカシなのか。

考えるのはエネルギーを浪費する。
腹が盛大に鳴ったのも仕方がないことだと思う。
私は顔を真っ赤にして腹を押さえた。

「いえ、これは・・・」

「甘いものはお好きですか？
懐縁堂のお饅頭が手に入ったんですけれど、夫が苦手でして」

そういって花のように微笑む。
照れか寒さのせいか赤らむ頬。
弧を描く紅を引いた唇。
細められ、私を見つめる黒目がちの瞳。
このまま食われるのならばそれでもいいと思えたろう。

腹さえすいていなければ・・・。

「ありがとうございます」

通されたのは畳のうえにテーブルしかない質素な部屋。
「すぐにお茶をお持ちいたします」
そういった彼女は何かに気づいて奥の部屋へと消えた。

どこかで鳴き声がする。
猫かなんかだろうか？

「赤ん坊か・・・」

ふすま越しに見ええるのは赤ん坊のおしめのようだ。

雪の中に晒されては乾かぬだろう。

立ち上がると彼女に一声かけようと廊下を歩いた。
外から見ただけではわからなかったが、家の中は思ったよりも広いようだ。
赤ん坊の泣き声を頼りに奥へと進む。
他人の家で足音を気にして歩き回るのは、泥棒をしているような変な気分だ。

一つの部屋の前までくるととたんに赤ん坊の泣き声が消えた。

「おや、寝付いたかな？」

私がふすまに手をかけた時だ玄関で人の気配がする。
私はまるで何か悪いことをしたような気分になり、足音を立てずに部屋へと戻った。

「だれだ」

初老の男が雪の積もったマフラーやコートを脱ぎながら現れる。

あの若く美しい婦人の夫がこれなのか？
夫にしては年が違いすぎやしないか？

「ああ、あの私は・・・」
しどろもどろでここに座っているいきさつを話していると、男は真っ赤になって怒った。

「ふざけるのも大概にしろ、空き巣に入った言い訳にしては下手すぎるぞ」

「いえ、本当です。あの人に聞いてください。
奥で赤ん坊をあやしていたようですから」

そういったとたん、男は今度は真っ青になる。

「赤ん坊だと？」

「ええ、先ほど奥の部屋で赤ん坊の泣き声が・・・」

「ふざけるのも大概にしろ、ここはわししか住んでおらん。
妻とはとうに死に別れたわ」

そういうと私の背をけり玄関へと追いやった。

「何の被害もないようだから警察へ突き出すのは勘弁してやる、
いいか、もう二度とここに来るんじゃない、
そのだらけた口でふざけたことをまた言ったらただじゃ済まさんぞ」

この老人のどこに力があるのかと思うほどしこたまケツを蹴り上げられ、
吹雪の中に追い出される。

「ですから、細身の女性が・・・」

私は必死に誤解を解こうとした。

誤解を解いて、あの女性に饅頭と茶をもらいたかったのだ。

「そうだ、藤の花の着物を着て・・・
そうだ、腰紐に鈴をつけていましたよ。
ここいらではめづらしい銀色の鈴を・・・」

とたんに男は玄関のドアをぴしゃりと閉めた。
誤解が解ける気配はない。
私は震える体を必死に支え、大家の家に向かった。

もう、腹が悲鳴をあげて仕方なかったのだ。



「今度からもう少し早くにあげてくださいね」

喜多氏の言葉が頭の上を通り過ぎる。
結局、あの約束も守れず。
約束の日から３日後の今日、死に物狂いで書き上げた。

「ああ、わかっています」

あのあと、大家の家で茶や飯をくらい、一息ついたころに始まった説教。

大家はどうも私の親代わりのつもりらしく、
売れない物書きよりちゃんとした職につくようにと長々と論じた。
それを聞きながら、
ああ、故郷の両親は私をこのようにしかってくれるだろうかと
故郷への望郷の念が沸き起こった。
その日は結局雪もやまず、大家の家に泊まり、次の日家に帰ったのだが。

「この話は一体どこから仕入れたんですか？」

家を出たとばかり思っていた喜多氏の声が私の耳に入る。
喜多氏は私の書いた物語を読んでいたのだ。
寝転がり、二日ぶりの睡眠をとろうとした私は不機嫌な声を漏らす。

「さぁ・・・」

「さぁ・・って、この文筆家って先生じゃないんですか？」
「寝かしてください、頼みます」
「ああ、そうですね・・・ただ・・・」

喜多氏は言いにくそうに続けた。

「この物語では女は家にすむ妖怪になってますが、これに似た話を聞きましてね」

私は必死に片目をあけて耳をすます。
「盗作したといいたいのか？」
「いえ、そうじゃありません」
喜多氏は言いにくそうに続けた。

「赤ん坊と自分を赤ん坊の父親に殺された女の霊がその男を殺したという話がありやしてね」

私は喜多氏のほうを振り向く。
「ほう」
「いえ、噂なんですが」
眠気が引き、喜多氏の話を聞く。

「ほら、センセイが約束した三日前にね、
愛人を囲っていた男の絞殺死体が見つかったらしいんです。
首には鈴のついた腰紐が巻きついていたもんですから、
姿の見えない愛人の仕業かと騒ぎになりましてね。
それが奇妙なことに男の亡くなった部屋の真下の畳がいやに黒ずんでまして。
警官が不思議がって畳をはがして床下をのぞいた所、土が盛り上がってる。
そこで、しゃべるを用意して掘り返したところ」

私は背筋に冷たいものを感じ、がばりと起き上がった。

「まさか、愛人と子供が？」

「ええ、そうなんですよ。
女が赤ん坊をしっかり両の腕で抱き締めた姿で埋められていたそうです・・・」

ああ、なんて危ないことを。

頭を抱えながらも背筋を這い上がる冷たいものをはらうことができず、
知らず喜多氏の持っている原稿を取り上げた。

「センセイ何をすんですか」

思わず引き裂こうとしながらそれができない。

これが私の飯の種なのだ。

「いやなに・・・饅頭を食い損ねたのが腹たってな」

何とかごまかし、苦労の末に書き上げた原稿を喜多氏に戻す。

「原稿料はここに置きますから、饅頭でも何でも買ってください」

喜多氏はそういって玄関を飛び出した。
雪は積もっているが、散歩にはいい天気だ。
私は原稿料の入った封筒をにぎりしめ、大家のありがたい説教を思い出す。

「店賃はもうすこし待ってもらうか」

私は先日食べ損ねた懐縁堂の饅頭を買いに出かけた。

　
　
      
   </content>
</entry>
<entry>
   <title>桜　①</title>
   <link rel="alternate" type="text/html" href="http://kp-kobo.hiho.jp/2009/05/post_31.html" />
   <id>tag:kp-kobo.hiho.jp,2009://1.40</id>
   
   <published>2009-05-27T04:29:46Z</published>
   <updated>2009-05-27T04:30:28Z</updated>
   
   <summary> 時は大正。 一軒の古びた家屋のにすむ男の物語。 川の流れは絶えず。 その中を流...</summary>
   <author>
      <name>天乃</name>
      
   </author>
         <category term="龍太郎の今者" scheme="http://www.sixapart.com/ns/types#category" />
   
   
   <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://kp-kobo.hiho.jp/">
      


時は大正。
一軒の古びた家屋のにすむ男の物語。




川の流れは絶えず。
その中を流れていきたいと思うのは、私だけではないだろう。

私の名は龍太郎。

龍のように雄々しくあれと父が名づけたのだが、父の期待にこたえることはできなかった。

私の職業は文筆家。

聞こえはいいが、大学を出て早数年。
そもそも、才能があったわけでもなかった。
いまだにあたりというべき傑作もなく、飯のために妖怪物語を書き綴っていた。

この手の話は最近までは人気があったのだが、どうも売れ筋がよくないらしい。
原稿料も入らなくなり、作品の依頼もこなくなった。

これ幸いとばかりに本当に書きたかった純文学を書き始めたのだが、思うものがかけない。
親のすねもかじれなくなり（つまり仕送りを止められた）明日の飯を食べることも難しい。
原稿に向かっては万年筆をくるくる指で回した。

「金も知恵も尽きて、作品を書く意欲まで尽き果てるか・・・」

小説を書くのは幼いころからの夢であった。

私も他の大作家のようにすばらしい作品を世に出すのだと。
もそりと起き上がりよれた服の下から手を伸ばし障子を開け放つ。

「題材を探すために川の方へいってみるか、
運がよければ用紙の升目も気持ちよく埋まるかもしれん」

言い換えれば、気分転換の散歩である。

目の前の真っ白な原稿の上に羽織を置くと、頭を掻いた。
「そういえば、大家から店賃を払えといわれていたな」
川をまっすぐ歩けば大家の家のもとへとたどり着く。

「そういえば港のほうに桜の名所があると聞いたな・・・まだ咲いているだろうか」

そこはわたしの家からずいぶんとはなれていたが、
普段家の中にこもっているわたしにはいい運動だろう。

電車賃がないという、現実もあるのだが。

私は港に向かって歩き出した。
港につくころには息が切れ、日も暮れ始めていた。

「ああ、こんなに疲れるとは」

帰りも同じだけ歩かねばならない。
そう考えただけで、私の足は重りのついたように動かなくなる。
どうするかと思案していると、近くに住む友人の名をふと思い出した。

「草壁の家はこのあたりだったな・・・
久しくあっていないが、少々金を用立ててもらうか」

大学時代に親しくしていたもので、
私が作家を目指して上京してからは連絡は途絶えていた。
ただ、風の便りに草壁がこの辺りにこしてきたというのを耳にしていた。
久々に会うと言うのに金を工面してもらおうなどと、
勝手きまわりないが、あの男なら「構わん」と言うだろう。
いつも外を見て、ボーっとしてることの多いやつだった。

「桜を見に来たのに、もう散ってしまっているか」

若々しい青葉をつけた桜の木を見上げながら、記憶を頼りに草壁の家を探した。
まもなくして、子供を連れた母親に会った。

「すいません、ちょっとお聞きしたいんですがね」

母親は子供の手をぎゅっと握り、私をいぶかしげに見る。
まぁ、確かに妖しい風体だろうな。

「草薙という私と同じくらいの男の住んでいる家を知りませんか？」

母親はさらに眉をひそめ、自分の今来た道をさした。

「この道をまっすぐ行くと橋があります、
それをわたってすぐの道を左に曲がってしばらく行けば右手に桜が見えますから」
「桜ですか？」
他の桜は散ってしまって葉だけになっているのに。

「お化け桜だよ」

子供が私に声をかける。
母親は慌てて子供の手を引いた。

「黙ってなさい、それじゃ」

私はまだ話を聞きたかったのだが、母親がそれをこばみ足早に去っていった。
しかたなく、言われた道をたどり始める。

橋を渡り、しばらく歩いた。

これほど探し歩くようなら、
まっすぐ家に帰ったほうがよかったのじゃないかと考え始めたころだった。

鼻先を掠める風に乗った香り。
顔を上げれば見事な桜が視界に写った。

まるで、そこだけ切り取られた風景画のように、美しい桜。

私は吸い寄せられるようにそこへと向かった。

「これほどまでに見事な桜、見たことはない」

しっかりと地に根を張った桜はその枝を四方に伸ばし
細い枝先には薄紅の花が衣のように美しい模様を描き出している。

思わずその花びらに触れようと伸ばしかけた腕を誰かにつかまれた。

「何をしている!」

相手の顔を見て思わず叫んだ。

「草薙！」

相手も私に気づきつかんでいた腕の力を緩める。
そういえば、草薙の家を探していたのだ。
桜にみとれ一瞬忘れかけていた。

「久しいな、じつはおまえがこちらに来たと聞いて久々に話でもしようと思ってな」

ありきたりな言い訳を口にする。
草薙の方はそれでも私の腕から手は離さなかった。

「家を探していたら、見事な桜があったもんで。
おまえの家の桜なのか？別に枝を折ろうとしたわけじゃないぞ」

草薙は小さく首を振る。

「いや、俺の桜じゃないが・・・」

そういってやっと手を離してくれる。
桜の奥に小さな離れがあった。

「あれが俺の家だ、ちょうどいい俺の話を聞いてくれるか？」

神妙な顔つきで俺をみる。
昔から細いやつではあったが、今暗闇で見ると幽霊のようだ。
いやに真剣な目に私はうなづいた。

「もし、よければ泊まっていってくれ」

「そりゃありがたい」

飯くらい出してくれるだろう。
腹もふくれ、一晩寝れば体力も戻る、そしたら明日また歩いて帰ればいい。
それに、この桜とも離れがたいというのも本音だった。
「たいしたもてなしはできんがな」

草薙の家にあがると家の中が桜の香りで満たされていた。

軒先に座れば桜を見ることができる。
草薙が盃ととっくりをもってきた。

酒よりは飯のほうがありがたいのだが、せっかくなので盃を受け取る。

「おまえの書いた本、何冊か読んだよ」

私の書いた本ということは、妖怪の類のものだ。
恥ずかしい限りで、私は酒を飲む振りをしてそっぽを向いた。

「あれは本当か？おまえはそのたぐいが見えるのか？」

あまりにもまじめに聞いてくる草薙の様子に、私のほうが聞き返す。

「おまえは見えるのか？」

「・・・・・・・・・」

しばらく黙っていたが、ぐいっと酒を飲み干しぽつりぽつりと話し出した。

      
   </content>
</entry>
<entry>
   <title>黄色　②</title>
   <link rel="alternate" type="text/html" href="http://kp-kobo.hiho.jp/2009/05/post_32.html" />
   <id>tag:kp-kobo.hiho.jp,2009://1.41</id>
   
   <published>2009-05-27T05:38:58Z</published>
   <updated>2009-05-27T05:41:17Z</updated>
   
   <summary>暑い日差しの中バス停の向こう側に一面、 黄色い絨毯のように向日葵が咲いている。 ...</summary>
   <author>
      <name>天乃</name>
      
   </author>
         <category term="ショートショート" scheme="http://www.sixapart.com/ns/types#category" />
   
   
   <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://kp-kobo.hiho.jp/">
      暑い日差しの中バス停の向こう側に一面、
黄色い絨毯のように向日葵が咲いている。

「あー暑い、暑い」

憎々しげに向日葵を見上げた男は何を思ったのか、
一本の向日葵の太い茎を踏み折ってしまう。

「この暑いのに、何が向日葵だ」

訳の解らないことを口にしながら上着を振り回す。
彼はセールスマンでこの暑い中スーツを着込み
一軒一軒家を回っては商品の説明をしていた。
しかし、上手く行かず上司からも怒鳴られる日々が続いていたのだ。
「俺の所為じゃねー、暑いから売れねーんだ」
二本目を踏もうとしたときだった。

『やめてください』

か細い声が男の耳に届いた。
「あん？誰だ！でて来い！」
返事は無い。
二本目を踏み折った時だった。

『あぁぁぁぁぁ』　

断末魔のような悲鳴が向日葵畑から響いた。
「だ・・・誰だ」
男は目を凝らした。
しかし、そこには向日葵畑しかない。

『私は向日葵の精でございます』

「えっ・・・」
『あなたは私の仲間を二人も殺しましたね』
「何言ってんだ・・・誰も殺してなんか・・・」
男は足元の折れてしまった向日葵を見て、慌てて足を引っ込めた。

『私たちはただ咲いているだけなのに、
あなたはなぜこんなことをするのですか？』

暑さで幻聴が聞こえるのかと頭を振る。
向日葵が揺らめき、男に迫る。

『許せない・・・』
『許さない』
『許すものか！』

いくつもの声が響く。

「う・・・うわぁぁぁぁああ」

男は慌てて駆け出していった。
しばらくすると、向日葵畑から一人の若い男が顔を出した。

「あはははははは・・・すげぇ慌てようだな」

折られた向日葵を見て頭を掻いた。
「バスを待ってる間に向日葵の種でも拾おうかと思ったら
あいつが暴れだすんだもんな」
とっさに裏声を使って男を追い払おうとしたのだ。
「しかし、向日葵の精とは・・・オレも乙女チックなことを思いついたもんだぜ」
男は折れた向日葵から種を取り出すとポケットにしまいこんだ。

「来年は俺の家の庭で咲けよ、俺が大事に育ててやるから」

ポケットを軽く叩くと微かに返事が聞こえた気がした。



『アリガトウ』


      
   </content>
</entry>
<entry>
   <title>契約書</title>
   <link rel="alternate" type="text/html" href="http://kp-kobo.hiho.jp/2009/07/post_33.html" />
   <id>tag:kp-kobo.hiho.jp,2009://1.42</id>
   
   <published>2009-07-01T09:00:18Z</published>
   <updated>2009-07-01T09:00:53Z</updated>
   
   <summary> 机に置いていた古いランプから煙と共に現れたのは、 変な髭の生えたおじさんだった...</summary>
   <author>
      <name>天乃</name>
      
   </author>
         <category term="ショートショート" scheme="http://www.sixapart.com/ns/types#category" />
   
   
   <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://kp-kobo.hiho.jp/">
      
机に置いていた古いランプから煙と共に現れたのは、
変な髭の生えたおじさんだった。

「おじさんとは失敬な」

おじさんは私の心を読んだのか、不愉快そうに眉をしかめた。

「ワタシは魔法のランプの精です。
　あなたの願いを三つ叶えてあげましょう」

私がお願い事を言おうとする前に、
ランプの精のおじさんは白い紙を私の前に広げた。

「願いを叶える前に、私と正式に契約を交わしてください」

言いながら、ランプの精は髭をもしゃもしゃと触った。

「それと、私のことはジンとお呼び下さい」

どうも、おじさんと呼ばれるのは嫌らしい。
ジンの差し出した紙には色々と文字が書いている。

でも、読めない。

「おや、あなたはまだ文字が読めないのですね」
文字が読めないからって、馬鹿にしてないでしょうね。
「いえいえ、馬鹿になどいたしません。
お体が小さくても、ランプから私を呼び出したのですから、
あなた様がワタシの主人でございます」

体が小さいってのは余計よ。
まぁ、良いけど。

「最近の世の中は物騒ですので、
　私と契約を交わしてから、
お願いを叶えさせていただくのです」

じゃぁ、ジン。
これにはなんて書いているの？

一枚目の紙に手を置いた。

「これには
     『我、ランプの精と契約を交わす』
                             と書いております。
 まずは、私の主人を決めるのです」

でも、困ったことに私は文字がかけない。
「でしたら、拇印でも構いませんよ」
私の手は小さかったので、手形になってしまった。
じゃぁ、この二枚目は？

「これには
   『無限なる願いは叶わず』
                   と書いております。
　ずっとお金が増えつづけるようにしろとか
　願いを無限にしろ（もしくは増やし続ける）
　などの願いは出来ないということです」

お金なんか欲しくないし、いいわ、手形を押してあげる。
三枚目も同じような文字が並ぶ。
やはり読めない。

「これには
  『死と生に関する願い叶わず』
                     と書いております。
　いくらワタシでも、死んだ人を生き返らせろ、
　などの願いは叶える事は出来ません」

死んで欲しい人も、生き返って欲しい人もいないなぁ。
私は手形を押した。
でも、私が文字を読めないことをいい事に、
適当なことを言ってるんじゃないでしょうね。
「いいえ、ワタシは嘘が付けないようになっております」
本当かしら。
私の目の前に、四枚目の紙が置かれる。

「こちらには
 『願いをキャンセルすることも一つの願いとする』
                                 と書いております。
  一度叶えた願いをキャンセルしてその分
  他の願いを叶えることなどは出来ません」

それはそうでしょ。
私はジンの顔色を窺いながら、四枚目にも手形を押した。
さて、最後の一枚だ。

「これがもっとも重要なものでございます」

なんだか、真面目な顔になっている。
私はジンの差し出した五枚目の紙と、ジンの顔を交互に見比べた。

「これには
   『三つの願い叶えた暁には、ランプの精の願いを叶えよ』
                                               とあります。
　つまり、ご主人様の願いを三つ叶える代わりに、
　私の願いを一つ叶えていただくのです」

なんだ、そんなこと。
私はすぐに、手形を押した。
「よ・・・よろしいのですか？
これで、ワタシはあなたと正式な契約を・・・」
ジンはあっさりと契約を交わした私にうろたえている。

いいのよ、私はさっさと願いを叶えたいの。

「それでは一つ目の願いをおっしゃってください」

心を読まないで。

「かしこまりまし・・・・」
大きく頷きかけて、ジンは困ったという表情を浮かべた。

もう願いは叶ったようだ。

「これは・・・困った」
私はうろたえているジンをよそ目に、ベットの上に横になった。
「あの・・・ご主人様？」

うるさいなぁ。

「ああ、困った。
　願いを叶えてしまったので心が読めない。
　これでは残りの願いを叶えられない」

ジンは困ったようにしばらく辺りをうろついて、
自分の住処であるランプを振り返った。
私は起き上がって、ジンの出てきたランプの前に立った。
心を読むな、という願いの前にランプに戻れとでも言えばよかったわ。
ジンは私の手をじっと見つめると、深いため息をついた。

「ランプをこすって私を呼びだした者が
　何ものであろうと、ワタシの主人になる。
　こんな決まり事さえなければ」

ぶつぶつ言いながら煙へと代わる。

「ワタシを呼び出したのが・・・
　　　　　ご主人様が犬だったなんて・・・」

私がランプを咥え窓から落とすと同時に、ジンはランプの中へ消えていった。
机の上に残った五枚の契約書は、ジンが消えると共に燃え尽きた。

さぁ、これでゆっくり眠れるわ。
私はもう一度ベットに横になり、
私のご主人様が戻ってくるのを寝て待つことにした。


      
   </content>
</entry>
<entry>
   <title>桜　②</title>
   <link rel="alternate" type="text/html" href="http://kp-kobo.hiho.jp/2009/07/post_34.html" />
   <id>tag:kp-kobo.hiho.jp,2009://1.43</id>
   
   <published>2009-07-01T09:06:27Z</published>
   <updated>2009-07-01T09:06:56Z</updated>
   
   <summary>話は去年の春までさかのぼる。 「あのころ俺は仕事がうまく行かんでな、やけになって...</summary>
   <author>
      <name>天乃</name>
      
   </author>
         <category term="龍太郎の今者" scheme="http://www.sixapart.com/ns/types#category" />
   
   
   <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://kp-kobo.hiho.jp/">
      話は去年の春までさかのぼる。

「あのころ俺は仕事がうまく行かんでな、やけになっていた」

庭先の桜を愛しげに見つめる。

「家賃が払えんようになって、追い出されて、
さぁどうしたものかとこのあたりを歩いていたとき、この桜にであったんだ」

愛しい女を見るような目つきの草薙に、なにやら不安を抱きつつ話の先を催促した。

「何もかもやけになっていて、
ああ、いっそのこと死んでしまおうかと思っていたらなにやら美しい声が聞こえてくる」

私は草薙の盃に酒を注ぎながら桜を見た。
草薙の声に呼応するようにはらはらと花びらの散るさまが、涙のように私の目に映った。

「何かと見上げてみたら、桜の枝に美しい娘が座ってこちらを見ている。
歳は・・・そうだな一七くらいだ。
桜色の着物に長く美しい黒髪。
口元で弧を描いた柔らかな唇・・・・
あっというまに俺の心を彼女が占めてしまった」

女に興味のなかった男なのに珍しいことだ。

「彼女のそばにいたくてこのぼろやを借りて何とか働き口を探し、暮らしてるんだ」
「その美しい娘さんってのはどこにいるんだ？会わせてくれるんだろう？」
冷やかし交じりで話すと草薙はすっと盃を持った指を桜の方へと向ける。

「ほれ、そこにいるだろう」

「何を言ってるんだ？桜しかないじゃないか･････」
空きっ腹に酒を流しこんでいたため、酔いは回っていたが幻覚を見るほどではない。

「やはり、おまえにも見えんのか」

そういって悲しげにつぶやいた。

「いいや、俺に見えてるからそれでいいんだがな」

草薙のうっとりとした瞳の先に目を凝らしても、何もない。
はらはらと桜の花びらが散りつづけるだけだ。
思い出したように草薙が食い物の準備を始める。
待ってましたとばかりに、私は桜を背にして座りなおした。

「もし・・・もし・・・・」

女の声が耳元でする。
慌てて振り向こうとした私を女の声が制した。

「どうか、振り向かないでくださいませ」

はかなげな遠くから響いてくるやさしい声。
「どうか・・・そのまま、私のお話を聞いてくださいませ」

「あなたは？」

私は振り返りたい思いをぐっとこらえ聞き返した。
声がすぐ耳元で聞こえる。
真後ろに立っているんだろうか？
人が近くにいたとはまったく気づかなかった。

「わたくしは草薙様と親しくさせていただいているものでございます。
あなたさまを草薙様のご友人とお聞きしまして、
ぶしつけながらお願いをさせていただきたく参りました」

「ああ、ではあなたが草薙の言っていた・・・」
振り返ろうとするが、風と共に舞ってきた桜の花びらに振り返ることができない。
「どうか、振り向かないでください」

はい、とは言いがたかった。
美しい娘ならば私も見てみたい。

「草薙様にお伝えください。
ここを去り、二度とこの家にこないようにと。
わたくしに会いにこないようにと・・・お願い申し上げます」

「なぜですか？草薙はあなたのことを愛しているんですよ」

一目見ればわかる。

「わたくしもお慕い申し上げております」
そしてすすり泣く声が。
「ですが、共に生きては行けないのです。
出会ってはいけなかったのです」

「待ってください･･」

遠ざかる気配に慌てて振り返る。

ザァァァァァァァアアアアアアア

花びらがいっせいに舞う。
目を開けていられず、気づいたときにはすでに姿がなかった。

「おまえ、何やってたんだ？」

草薙の言葉を聞いて自分の姿を見る。
背中や肩に積もった桜の花びら。
「いま・・・おまえのいっていた････」

私はそれ以上言葉を失った。

草薙の言っていた娘の正体がなんとなくわかってしまった。
そして、草薙自身も娘の正体気づいていることに。
「たいしたもんはないんだが、食ってくれ」
「すまんな・・・」
出されたものを口に運びながら、さっきの娘の言葉を伝えるべきか悩んだ。

やがて、疲れと早くに口にしていた酒が回り、心地よい眠りへと落ちる。

夢うつつ、人の声が耳に入る。

「会いたかった」

「･･･もう、お会いできません。
どうか、人の世界にお戻りくださいませ」

「俺はおまえのためなら人の世も捨てよう」

「ああ、どうかそのようなことを口になさらないでくださいませ」

「私のことが嫌いか」

「どうしてそのようなことがありましょう。
お慕い申しております」

「ならば俺と共にいてはくれまいか｣

「それはなりません。
どうかわかってくださいませ。
ご友人がいらっしゃったのも何かの縁でございましょう。
どうか、あの方と共に人の世に」

「彼ならわかってくれる。
彼がここへ来たのもきっと俺達を見届けるためだ」

「ああ、あなたとは離れたくありませんのに、
あなたとともには生きられない」

「共に生きよう」

男の声は草薙だ。
ひどく重いまぶたをわずかにあける。
庭の桜の前に二人の影が見える。
一人は草薙、そしてもう一人は。

「草薙様･･･」

草薙の胸に自分の体をあずけた。
なるほど、草薙の言うとおり美しい娘が立っている。

「俺をおまえのもとへ連れて行ってくれ。
後悔はしない、おまえと共ならどこへでも行こうぞ」

「離れたくありません」
これ以上二人の逢瀬を除くのも無粋だ。
ひどい眠気が再び襲い、私は再び深い眠りに落ちた。



「もし、もし」

私は心地よい眠りから無理やり揺り起こされた。
目の前にあったのは老人のしわだらけの顔。
「うわ・・・あんた、誰だ」

「それはこちらがききたいですよ。こんなぼろやで何をなさっておいでだね」

私は慌てて起き上がるとあたりを見回した。
昨日食事をし、飲んだ後もなく。
それどことか、部屋の中はまるで何年も人が暮らしてないような荒れよう。

「はて？草薙はどこに行ったんだ？」

「あんた、草薙さんの知り合いかね」
「はぁ、昨日偶然会いまして」
「そうかい、生きてたんだな。
５年前に急にいなくなって、わしら桜に食われたんだと心配しとったんだわ」
老人の言葉を聞いて再び桜をみる。

「桜が・・・散ってる」

「何をいっとるんだい、この桜は草薙さんが消えてからまーったく花をつけんようになったがね」

そんなはずは・・・昨日まで美しい桜の花が咲いていたのに。

「他の花と違う時期に花を咲かせて、男達に女の幻を見せるから
『お化け桜』って名前までつけられてなぁ、草薙さんも女の姿が見えると言っておったわ」

「草薙はどこですか」
老人は首をかしげた。
「あんさんが一緒におったって・・・」
老人は私の肩を軽くはたいた。
「どこぞの桜が風に舞ってきたかな」

肩からはらはらと桜の花びらが舞う。

「まぁ、こんなとこおっとったら桜に食われるで、はよう自分の家に帰りなせぇ」
私は老人に追い出される形で、その家をでる。

しかし、草薙はどこに行ったんだ？

私は花をつけずにある桜の木の下へ行った。
「こりゃ・・・」
桜の根元に半分埋まっている盃を見つける。
昨日、酒を酌み交わした盃だ。

「ひっ」

それを掘り返しかけて、慌てて手を引っ込めた。
土の中に盃の下から白い物が見える。

人の骨だ。

「草薙・・・なのか？」

腰を抜かし、そのまま後へと後ずさる。

「食われたのか、それとも・・・」
私は呼吸を整え、盃とともに土をかけ生めた。
「共にそちらで生きることにしたのか・・・・」

ほろりと涙がこぼれる。

昨日の草薙は本物だったのか、それとも、桜の見せた幻か。

特に親しくもなかったのに、
悲しくもないのに、
ほろりと落ちた涙は桜の根元に吸い込まれていく。

「あの時、私がおまえを引き止めていればよかったのか？」

桜を見上げた私の瞳はすでに乾き、青空を捕らえていた。
「いかんいかん、そろそろかえらねば」


少なくとも、私は一人の友人を失った。

ただ、それだけ・・・

      
   </content>
</entry>
<entry>
   <title>蜂</title>
   <link rel="alternate" type="text/html" href="http://kp-kobo.hiho.jp/2009/07/post_35.html" />
   <id>tag:kp-kobo.hiho.jp,2009://1.44</id>
   
   <published>2009-07-20T13:35:41Z</published>
   <updated>2009-07-20T13:35:59Z</updated>
   
   <summary> レンゲ畑の中を歩く。 花が私の足元で揺れ花の海の中を歩いている気分にさえなる。...</summary>
   <author>
      <name>天乃</name>
      
   </author>
         <category term="ショートショート" scheme="http://www.sixapart.com/ns/types#category" />
   
   
   <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://kp-kobo.hiho.jp/">
      
レンゲ畑の中を歩く。
花が私の足元で揺れ花の海の中を歩いている気分にさえなる。
このまま、花の海の中へ沈んでしまえれば･･･。

「先生、どうしたの？」

生徒の一人が私の手を引っ張る。
今までの暗い考えが、子供達の笑顔で消え去っていく。
私は遠足の引率で子供達と一緒にレンゲ畑に来ていたことを思い出した。
生徒はぼんやりとしたままの私を心配しているようだ。
私は何とか顔の表面にだけ、笑顔を出した。
「お花がきれいだなぁって思ってね」
「そうだよね、でも、あっちもキレイだよ」
生徒は私の手を引いて、他の生徒のいる場所まで引っ張っていく。

「みんなで集まって、何をしているの？」

私は生徒たちが覗き込んでいる場所に向かった。
そこは柵で囲われた場所だった。
柵には古い看板が付けてある。
もう所々掠れているが、『キケン』という文字だけは辛うじて読めた。

「あら、ここから先は行けないのね」

生徒たちが危なくないように、自分が前に出る。
私はその向こうを覗き込むように背を伸ばした。

「先生、ほらあそこ」

一人の生徒が私の目の前を指差す。
日差しに反射して、木の枝の先に何かが光った。
「何かしら」
生徒たちは何かを指差す。
木の枝の先に、何かある。
私は促されるまま、柵の向こうへと体を伸ばした。
小さな手の感触が、背中に当たる。

「え・・・・？」

その感触はいくつもの、いくつもの生徒たちの手。
反動で私の体は柵の向こうへ倒れこんでしまった。
「きゃぁ」
とっさに頭をかばったものの、体をひどく地面にぶつけた。
腕にも擦り傷が出来ているし、見えないが顔もひどく痛む。
イタズラにしても度が過ぎている。
私は腕をさすりながら、柵の向こうの生徒たちに怒鳴った。
「もう、何をするの！」

しかし、柵の向こうに人の姿がない。

私は何度も瞬きをした。
どういうことなの？
私は急に不安になった。

「どうかしたんですか？」
急に声を掛けられて、びくっと体がこわばる。
振り返ると、やさしそうな笑顔の男の人が立っている。
「お怪我をされているようですが、大丈夫ですか？」
私は急に恥ずかしくなった。
教師が生徒に突き飛ばされて、怪我をしたなんて言える筈が無い。
「あの、転んでしまいまして」
「僕の家がすぐそこにありますので、怪我の手当てをされませんか？」

私は断ろうとして、断れなかった。

別れたばかりの恋人と、よく似たやさしそうな笑顔を彼が向けているから。
それに、鼻先をくすぐる甘い香が気になっていた。
彼は子供のような笑顔を向けてきた。

「ボクは甘いものが大好きでして」

私はその照れたような笑顔に安堵し、
怪我の手当てだけをさせてもらいに彼の家へ向かった。
木立の向こうに建つ、小さな家。
さっき見たときには気付かなかった。
彼に促されるまま家に入る。
家の中はさらに甘い香でいっぱいだった。
「お茶でも入れますよ」
彼はそう言って、奥へ向かった。
なんで、私はココにいるんだろう。
「そうだ、子供達が・・・」
私は生徒たちが心配していないか、怪我をしていないか不安になってきた。
さっき私を突き飛ばしたのは、イタズラだったのだろう。
その点は大いに叱るべきではあるが、
教師である私が生徒たちを置いて見ず知らずの男の家に来るなんてあってはならないことだ。
私は怪我の手当てもそこそこに、立ち上がった。

「もう帰ります」

そう決心したのに、鼻先を甘い香がくすぐる。
「お茶を一杯だけ、飲まれませんか？」
彼は私の目の前に、カップを置いた。

深い紅茶の色。

渦巻く、香。

ゆっくりと座り、
私は知らず知らずのうちにそのカップを口にしていた。

「一杯だけいただきます・・・
 子供達も心配していますし・・・」

口の中へ広がる甘い蜜。

紅茶と思っていたそれは、
           甘い蜂蜜のお茶だった。

「帰る必要はありませんよ、
         今日からあなたが女王様ですから」

彼のその言葉の意味はわからなかった。
ソーサーに置いたカップに彼はもう一度甘い蜜を注ぐ。
私はそれを抵抗もなく、口に運んだ。

「子供達も心配はしていません、あの子達とは取引をしましたから」

喉の奥へ流れる甘い蜜。

私はもう、その飲み物の虜になっていた。
部屋の中に甘い香がさらに広がる。

その香は、私から溢れ出していた。

「子供・・・たちが・・・」
「大丈夫、子供はこれから増えていきますから」

薄れる意識の中で、羽音が響いた。




「先生、大丈夫かなぁ」
「大丈夫だよ、先生美人だもん」
「元気になるといいなぁ、先生」

生徒の一人が指を指した。
「ほら、さっきの蜂さん」
一匹の蜂が子供達の視線の先で止まり
合図を送るように飛び、巣へと戻っていく。

木の枝に下がった古い蜂の巣。

生徒たちがその巣を見つけたのは遠足に来てすぐのことであった。
柵越しにそっと様子を窺うが、蜂の姿はない。
どうもずいぶん前に蜂が駆除されてしまった後のようだ。
すると、巣から一匹の蜂が飛んできて、生徒たちに声をかけた。

「私と取引をしないか？」

生徒たちはびっくりして、声を失う。
それもそうだ、蜂が喋ったのだ。

「驚くことは無い、私は蜂の精霊だ。
永い間眠っている間に、巣は荒らされ仲間はいなくなってしまったのだ」

蜂は表情には表れなかったが、悲しそうな声を出した。

「しかも柵に魔法をかけられ、
私がココから出られないようにされてしまった」

生徒たちはこの不思議な蜂を興味深げに見ていた。
しかし、疑うという言葉をもたないほど、子供達は純粋だった。
その子供達に、蜂はくるくると弧を描いて飛びながら喋りつづけた。

「私たちの仲間を増やすために、女王が必要だ」

蜂はレンゲ畑にいる先生のほうを向いて飛んだ。
「彼女を我々の女王に迎えたい」
生徒たちはバスの中で暗かった先生を思い出し、ずいぶん考え込んだ。
「でも、先生は人間だよ」
「それは大丈夫だ。
  私はこの柵を越えてきたものを、蜂に変えることが出来る」
「本当に？」
「本当だとも、ただ、私はココから出られない。
君たちが彼女をこちら（柵の内側）につれてきてくれないか？」
「・・・でも・・・」

「代わりといってはなんだが、君たちの願いを叶えてやろう。
  ただし、こちら側でしか私の力は使えないがね」

生徒たちは皆で話し合うと、声をそろえていった。

「先生がずっと笑顔でいれるようにしてくれる？」

蜂は生徒たちの声を聞いて、頷くように飛んだ。

「ああ、もちろんだとも。
　　　　　　　　女王になるのだからね」

その声を聞いて、一人の生徒が先生を呼びにレンゲ畑へ走った。

      
   </content>
</entry>
<entry>
   <title>杭</title>
   <link rel="alternate" type="text/html" href="http://kp-kobo.hiho.jp/2009/09/post_36.html" />
   <id>tag:kp-kobo.hiho.jp,2009://1.45</id>
   
   <published>2009-09-13T05:55:22Z</published>
   <updated>2009-09-13T05:58:41Z</updated>
   
   <summary> 薄気味の悪い、夜だった。 月が不安げに顔を隠し、僕は重い扉をノックした。 ノッ...</summary>
   <author>
      <name>天乃</name>
      
   </author>
         <category term="ショートショート" scheme="http://www.sixapart.com/ns/types#category" />
   
   
   <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://kp-kobo.hiho.jp/">
      
薄気味の悪い、夜だった。

月が不安げに顔を隠し、僕は重い扉をノックした。
ノックの音が響く。
しばらく待ったけど、返事が無い。
辺りは薄気味が悪いし、徐々に体が冷えてくる。
　
　
「大丈夫」
　
 
自分にそう言い聞かせ、扉を押した。
ずいぶん長い間放置されていたのか扉はひどく重く、
そして、不気味な音を響かせた。
その音は耳に響き、脳へと伝わる。

背筋がぞくぞくと震えた。
なんで、こんなところにいなくてはいけないのか。
自問自答している場合ではない、僕は玄関ホールの机の前に歩いていった。
机の上には一枚の羊皮紙に書かれたメモと立派なケースに入った杭があった。
 
 
 
『　この館に足を踏み入れたものは
　　　館の主の呪いをうける
　　呪いをうけたくないものは
　　　　　この杭で主を討て　　　　　　』
 
 
 
杭は見たところ銀製だった。
ケースを開けて、慎重に持ってみる。
思ったほど重くはない。
しかし、手の中に広がる感触は殆ど本物。
こういう表現をするのには理由があった。

実はこれはゲームなのだ。

といっても、パソコンやテレビでやるゲームとは違って、
バーチャルリアリティの世界で本物と同じような感触を感じることの出来るゲーム。
特殊な装置を使ってのゲームらしいんだけど、正直、僕の理解の範囲を超えていた。
ただ、大学の先輩から「良いバイトを紹介する」といわれてノコノコついてきたら、
このゲームをしろということ。

ゲームを実際世間に出す前に試運転（？）という形でゲームをして、
問題がないか調べたいとのことだった。
僕はそっちの方面は暗いのだけど、お金に貧窮してるしバイト代はかなりいい。
なにより、先輩からの紹介だ。
断る理由なんてない。

手の中の杭を握りなおして、僕は辺りを見る。
先に来たはずの先輩の姿を探したのだ。
机の上にある杭のケースは２個。
一本は僕が。
もう一本は先輩が持っているはずだ。

「どこですか、先輩」

僕の弱弱しい声がホールに響いた。
自分の声に脅えたなんて、絶対に先輩には言えないな。
僕は震える足で先へと進んだ。
誇り臭い部屋。
香りまで感じるのかと、感心しているときだった。

「遅いよ」

僕が顔をあげると、先輩は二階へ続く階段の上にいた。

「すいません」

頭を下げて先輩の姿を追う。

「このゲームは二人一組なんだから、早く来てくれないと」

先輩は文句を言いつつも、楽しそうだった。
僕は先輩の後ろについて行きながら、震える足を必死に動かした。

「まずはどうするんですか？」
「この館の秘密をさぐるんだ」
「どうやって？」
「敵を倒しながら、それを探すのが一つ目の・・・」

そう言ってるさなか、二階のドアの一つが開いた。
 
 
先輩はさっと身構えて、何かを手にする。
僕はドアの開く音にびっくりして、腰を抜かしていた。

「馬鹿、何やってるんだ敵が出たら殺すんだぞ」
「そんなこといっても、武器なんか・・・」

僕は銀の杭を思い出した。

「まさか、杭が武器なんですか？」
 
 
「杭？」
 
 
先輩はドアを気にしつつ、僕のほうを見た。

「何だよそれ」
「え？」

先輩の手には杭はなかった。
その代わりに、おもちゃのような銃が握られている。
 
 
「だって、入り口の机にメモとこの杭が・・」
 
 
ドアの向こうからは何も出ない。
こちらが近づかないかぎり、敵も出てこないように設定されているのだろう。
 
 
「入り口に置いてあったのはこの銃だ。
杭はラスボスのときに初めてケースが開くって説明聞いてたろ？
おまえ、この銃をとらなかったのか？
何度目だよ、この話するの」
 
 
僕は首を振った。

「あれ？先輩・・・前にこの話しましたっけ？」

言った先輩本人も自分で首を捻った。
 
 
何かがおかしい。
 
 
ドアの向こうから人の姿が現れる。
先輩はそっちに向かって銃をかまえている。
この姿を何度、見ただろう。
僕はゲーム会社の人が言った言葉を、思い出していた。

「時折りバグが見つかるんだ。
手に入るはずのアイテムがなかったり、
急に物語が冒頭にもどっちゃったり」

思い出しながら、僕は自分の意に反して、
手にした杭を高々と抱えあげていた。

先輩は僕に背を向けている。

やめてくれ。
 
 
 
僕は・・もう・・・こんなことしたくない・・・

　　　　　　　　ジ・・・ジジジジ・･･･ガガガガガガガガガガ・・ガ・・・
　 　　　　　　
  
 
 
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 

薄気味の悪い、夜だった。
月が不安げに顔を隠し、俺は重い扉をノックした。
ノックの音が響く。しばらく待ったけど、返事はない。
当たり前だ。何をしてるんだ、俺は。
肩をすくめ、扉を押した。

ずいぶん長い間放置されていたのか、
扉はひどく重く、そして、不気味な音を響かせた。
俺はその音にさえ、わくわくした。
そう、目の前に机があるはずだ。
杭の入ったケースと、羊皮紙のメモが置いてあるはず。
俺はそう考えながら、首を捻った。

このゲームは始めてやるはずだ。

もちろん、先にゲームの攻略の説明なんか聞いたら面白くないから、
目的だけ聞いてゲームの詳しい内容は聞かなかった。
なのに、なんでここに杭の置いてある机があるって知っていたんだ？
 
 
これも、ゲームのバグなのか？
 
 
自問自答している場合ではない、俺は玄関ホールの机の前に歩いていった。
やはり、机の上には一枚の羊皮紙に書かれたメモと立派なケースに入った杭があった。
 
 
『　この館に足を踏み入れたものは
　　　館の主の呪いをうける
　　呪いをうけたくないものは
　　　　　　この杭で主を討て　　　　　　』
 
 
杭は見たところ銀製だった。
二つのケース二つの杭。
俺は片方の杭を手にする。

「俺、さっきは銃を持ってなかったか？」

そう言いながら、苦笑いを浮かべた。
 
 
「初めてするゲームなのに、何言ってるんだ俺は」
 
 
遅れてやってくる後輩を二階で待つことにした。
どうせなら、脅かしてやろう。
二階の一室に身を潜める。
しばらく待っていると、人の足音が響いた。

「ん？あいつ一人じゃないのか？」

話し声もしている。
俺はドアを開けてそっと外を覗こうとした。
 
 
「！」
 
 
そこにいたのは後輩と、俺だった。

もう一人の俺はこちらに銃を向けている。
そして、アイツは腰を抜かして座り込んでいる。

どういうことだ？
なんであそこに俺がいる？

俺はこれもゲームの一つだと思ってドアの外へ出た。
銃声が響く。
俺の胸を貫通する。

そして、目の前の俺の背にアイツが杭をつきたてている。

何をしているんだ・・・おまえは・・・。

目の前が暗くなる。
 
 
 
　　　　　　　ジ・・・ジジ・･･･ガガガガガガガガガガガ・・・

 
 

 
薄気味の悪い、夜だった。
僕は重い扉を押し開け、屋敷の中へ入る。
先にゲームを始めているはずの先輩の姿を探した。
「そうだ、先輩は二階にいるんだ」
そう口にして、僕は首を捻った。
なんで、そんなこと知ってるんだ？
僕はこのゲーム初めてしたはずなのに・・・
 
 
 
　　　　　ジ・・・ジジ・･･･ガガガガガガガガガガガ・・・

ジジジジジジジジジ・・・ガガ・・・ジジ・・・ブツン


      
   </content>
</entry>
<entry>
   <title>お祭りの夜</title>
   <link rel="alternate" type="text/html" href="http://kp-kobo.hiho.jp/2010/01/post_37.html" />
   <id>tag:kp-kobo.hiho.jp,2010://1.46</id>
   
   <published>2010-01-27T08:48:15Z</published>
   <updated>2010-01-27T08:48:54Z</updated>
   
   <summary> 太鼓の音に心臓が跳ね上がる。 私の村のお祭りの開始の合図だ。 私は弟の手を握っ...</summary>
   <author>
      <name>天乃</name>
      
   </author>
         <category term="ショートショート" scheme="http://www.sixapart.com/ns/types#category" />
   
   
   <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://kp-kobo.hiho.jp/">
      
太鼓の音に心臓が跳ね上がる。
私の村のお祭りの開始の合図だ。
私は弟の手を握って､浴衣と下駄で家を出た。
「おねえちゃん、わたあめ食べたい」
弟は会場につく前から出店のことばかり頭に浮かぶらしい。
私は笑って､弟の手を握り返す。
「わたあめだけ？」
「あとね、リンゴ飴とたこ焼きと・・・あと金魚すくいとね・・」
「おねえちゃん、そんなにお金持ってないよ」
そう言って､笑う。
「えーお父さんがくれてたでしょ」
ちゃっかり見ていた弟は私を睨んだ。
「二人分なのよ？」
「えーーー」
口を尖らせる弟と､夜道を歩く。
同じように祭りに向かう人の流れに､私の足は自然と速まった。
会場ではさっそく弟がリンゴ飴を頬張り､私はわたあめを手にした。
半分以上、弟のおなかに納まったわたあめはすでにべたつく割り箸だけになっている。
「食べ過ぎると､明日、おなかを壊しちゃうからね」
たこ焼きをせがむ弟に､私はため息混じりにお財布からお金を出した。

「ねーねー、あれって何のお店？」

出店からほんの僅かわき道にそれたところに､小さな明かりとテントがあった。
そこへたこ焼きを手に向かう。
「いらっしゃい」
笑顔で顔を上げたのはやせた男の人。
くんくんと鼻先を動かして､私の手の中のたこ焼きを見つめる。
「ここは何のお店ですか？」
そっとたこ焼きを男の視線からそらした。

「思い出を扱っております」

私は眉をしかめて､弟の手を握る。
「思い出って？」
店先に並ぶものを見た。

薄汚れた独楽に、泥まみれのおはじき。
それから、糸が解けて中身が見えるお手玉。
破れた絵本に､古いお人形。

「ただのガラクタ？」

「とんでもない、とても大事な思い出ですよ」
弟はすでに、薄汚れた独楽を楽しそうに手にしている。
「思い出って・・・」
私はそれを見ながら､ふと視線がとまった。
視線の先にあったのは、一冊の絵本。
破れた絵本には記憶があった。
しゃがみこみ､それを手にする。
中をあけて最後のページを見る。
とても汚い字で、私の名前がかかれてあった。
「コレって・・・私の・・」
小さな頃､お母さんに何度も読んでもらった絵本。
友達が出来て外で遊ぶようになってからは手にしなくなって､
いつのまにか無くなっていた。
「なんでここに？」

「ここには行き先のなくなった､思い出が集まるんですよ。
でも、それは行き先を思い出したようですね
それはあなたの思い出のようだ､どうぞお持ちください」

そういって、にっこり笑う。
ちょっと恥ずかしくなって私は弟の手を握って立ち上がった。
「僕これほしい」
弟の手には独楽。
「ええ、どうぞ」
「でもこれは誰かの思い出なんでしょう？」

「行き先のなくなった思い出です。
新しい思い出の欠片になるなら､この独楽も喜ぶでしょう？」

その言葉に、私は弟を見る。
汚れたそれをとても大事そうに握った。
「お金は・・・」
「そうですね・・・」
貰うつもりのなさそうな男は､ついっと私の手を見る。
そして、指を挿した。
「お代でしたら、そのとてもおいしそうなものでいかがでしょう」
「これでいいの？」
私の差し出したたこ焼きを嬉しそうに受け取る。
弟はちょっと不満そうだ。

「では、お代はいただきましたので」

気づけば私と弟は出店の並ぶ道のど真ん中にいた。
どんなに探しても､あの店は見つからない。
でも、私の手の中には絵本があって。
弟の手の中には独楽がある。

夢ではないようだ。

「おねえちゃん・・僕たこ焼き食べたい」

弟は不満そうに私の手を引くので､私はもう一度たこ焼きを買いに走った。

家に着くと､お父さんが弟の独楽を見て首をかしげた。
「それ、どこで見つけたんだ？」
「えっと・・お祭りでね」
「そうか、いやぁ俺が小さな頃になくした独楽とそっくりだな
・・・よし、俺が独楽の回し方を教えてやろう」
弟の手から独楽を取り上げると､お父さんは子供のように笑って独楽に紐を巻く。
それを弟がわくわくした顔で見つめた。

私は絵本を広げる。
破けて､汚れたそれはとても懐かしい思い出をたくさん私に思い出させてくれた。

そして、回る独楽はお父さんと弟の共通の思い出。
新しい思い出に追加される日もそう遠くはないだろう。


      
   </content>
</entry>
<entry>
   <title>密</title>
   <link rel="alternate" type="text/html" href="http://kp-kobo.hiho.jp/2010/01/post_38.html" />
   <id>tag:kp-kobo.hiho.jp,2010://1.47</id>
   
   <published>2010-01-27T08:49:07Z</published>
   <updated>2010-01-27T08:49:25Z</updated>
   
   <summary> 私の前にあるのは小さな箱。 その箱の中に入っているのは甘い蜜。 蜜はてらてらと...</summary>
   <author>
      <name>天乃</name>
      
   </author>
         <category term="ショートショート" scheme="http://www.sixapart.com/ns/types#category" />
   
   
   <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://kp-kobo.hiho.jp/">
      

私の前にあるのは小さな箱。
その箱の中に入っているのは甘い蜜。
蜜はてらてらと輝いて､私を誘う。

「食べてはいけませんよ」

そういわれて､私はぐっと我慢した。
言った本人は部屋を出てしまう。
私は、目の前にある箱の中の蜜をじいっと見つめていた。

「おいしそうだね」

いつのまにそこにいたのだろうか。
男の人が隣に座っていた。
そして、私と同じようにその蜜を見つめる。
「食べちゃダメなんです」
そういうと、男の人はとても悲しそうな目を向けた。
「どうして？」
「ダメって言われたから」
「ふうん」
男の人の手がその箱へ向かう。

「あっ」

その指に僅かな蜜が絡まり､それを男の人はおいしそうに口に含む。
「とても、甘くておいしいね」
私はすごく怖かった。
食べてはいけないといわれたのをこの人は食べてしまった。
どれだけ怒られるのだろうかと､不安が募る。
「大丈夫､ここには僕と君しかいないから黙っていればばれないよ」
確かに､指につけたくらいの量では減っているのか分からない。
それに、舐めてしまえば証拠も残らない。
「君は食べないの？とてもおいしいよ？」
その声が私を誘う。
私の視線は蜜に向けられ。
指は自然とそこへ向かう。
でも・・・とその手はとまった。
もしばれたらどうしよう。

「大丈夫､僕は言いつけたりしないから」
その優しそうな笑みに､私の指先は蜜に触れた。
冷たいとろりとした感触と､甘い香が私を誘ってつい、口へ運んでしまう。
「甘い！」
その声は思った以上に部屋に響いた。
そして、気づいたときには男の人は消えていた。

「食べたね」

その声に､私は指先を口から離す。
振り返ることなど出来ない。
私に､食べるなといった本人が部屋に帰ってきたのだ。
「食べてはいけないと､あれほどいったのに」
私は男の人の甘言に乗ってしまったことをひどく後悔した。
そして、どう言い訳し様かと思っているうちに頭がぐらりと揺れる。

「その蜜はね・・・」

その声を最後に私の意識は消えた。

目を覚ますと､私はベットの上だった。
白いシーツがとてもまぶしい。
天井のほのかな明かりと､私を心配そうに覗き込む両親。
「よかった」
その声に私は辺りを見回した。
「ここはどこ？」
「病院だよ」
「なんで？」
「覚えていないの？」
私は頷いた。
「事故にあったのよ」
そういえば、彼の車に乗って対向車が飛び出してきた。
その後の記憶がない。
「・・・残念だけど」

私はその言葉を聞いて涙をこぼした。
そして、私に蜜を舐めるようにいった男の顔も思い出した。
運転していた彼だ。

口の中がひどく甘くてほろ苦い。

「その蜜はね、彼の命の欠片なの」

彼女の声が再びよみがえる。

そうだ、あの時､私に蜜を舐めてはいけないといったのは彼女だ。
対向車の運転手。
彼女の驚いた顔だけが､鮮明に思い出される。



その蜜は命の欠片。
ある人が､愛する人に残した最後の欠片。
恋人を生き返らせるために､自分の命を蜜にして彼女に食べさせた。
その蜜は､何より甘く。
そして、今はとても苦く悲しい味がした。


      
   </content>
</entry>

</feed>
